本当にこの人、よく言うよ。




ユウ光で、光高一ユウジ高二で、高校が違って自然消滅しそうな話
宇井さまリク






「財前、俺今日早く帰らなあかんねん。鍵任せてもええかな?」
「あ、はい。おつかれさんです。」



中学2年の時、全国大会では本間に悔しい思いをした。あれから2年。俺は高校に入学した。テニスが強い高校で、もちろん俺はテニス部に入部。中学時代は変な誤解をされて上級生に嫌われたりもしたけれど、今回は白石部長も謙也さんも同じ高校やからそんな思いをしないで済んだ。


俺は、あの全国大会の日からさらに「強くなりたい」という気持ちが強くなっていた。練習も人一倍一生懸命やったし、放課後も残って特訓した。その成果もあって、翌年の全国大会は第3位。俺はシングルス2で勝利を収めた。


高校進学後は、白石部長に頼んで帰り二人で自主練習をするようになった。白石部長はやっぱりつよいし、ものすごく努力が出来る人やから勉強になることばかりや。こんな素晴らしい環境やけど、中学時代とは決定的に違うところがある。それは、当時とは上を目指すメンバーが違うのだ。


白石部長、謙也さん、俺と、小石川さんは同じ高校で同じ部活。小春先輩は地元でも有名な進学校へ。千歳先輩は九州に帰ったし、師範は修行のために東京へ行ってしまった。金ちゃんはまだ中学生や。
そして、俺の恋人であるユウジさんは、服飾関係の専門的な分野を学ぶ高校に進学。テニスも辞めてしまった。




初めこそ、少しの距離くらいへっちゃらやと思っとった。ユウジさんも一生懸命俺に会おうとしてくれたし、俺は心の距離は一切感じなかった。せやけどユウジさんの学校は制作やデザインの課題がとても多くて、本間に忙しそうやった。徐々に会える回数が減っていき、俺は俺でますますテニスにのめり込んでいったもんやから空き時間もあまりなく、初め「少しの距離」やと思っていたそれは、気がつけばとんでもない遠さになっていた。





あたりが少し暗くなってきた。なぜ人は夜が来て空が暗くなると、心も一緒に暗くなるのやろうか。ユウジさんのことを思う時間はどんどん増える。それに相対するように、俺とユウジさんの間の距離も広がってる気がする。ただめちゃくちゃ大事にして、それなりに大事にされて、って、それだけでよかったのに。










「おいこら、帰り遅すぎやないか」




校門をくぐったところで、手首を強くつかまれた。暗がりで驚いたが、ユウジさんだ。



「ユウジさん…」
「いつもこんな遅くに一人で帰るん?危ないやん。謙也とか蔵とかと一緒に帰れや」
「や、俺男やし。そんな心配いらんし」
「男かもしれへんけど、俺にとっては恋人や。心配するのが当たり前やろ」





驚いた。驚きすぎて素の反応返してしもたけど、俺この人に会うのめちゃくちゃ久しぶりやねんで。連絡もろくに取ってへんし。俺は本間にびっくりした時とかでも、表情豊かに驚けない。やから、今実際めちゃくちゃ動揺してるけど、自分は無表情なんやろなってことくらいは想像できる。せやけど、ユウジさんは分かってしまうんやと思う。俺の気持ちとか、心情とかいろいろ。


「…なんで何も言わへんの。俺、お前の彼氏やろ?」
「………。」
「なんや、ちゃうんか」
「ちゃうくない、けど…。」
「他に好きな女でも出来た?」
「違う!」
「うん、違うって分かってて言った。ならなんでそんな顔しとるんか説明して。」



「………別に。そっちからろくに連絡もしてこぉへんし、高校楽しいやろし。ユウジさんは俺との自然消滅狙っとるんちゃうかなーって思っとっただけすわ。」




ユウジさんの顔はもちろん見れない。はぁ、ってあきれたような溜息が聞こえて体が無意識にびくりと揺れる。もう、なんで俺ってこうなんやろう。素直に「寂しかったです」と言うことが出来たらどれだけ可愛いだろうか。ユウジさんは、もし俺と別れたいと思ってたらしっかり別れを告げられる人だ。せやから今のは嘘。嘘というか、俺の本音。もしこのままユウジさんとの関係が自然消滅してしもたらどうしよう、っていう、俺の情けない本音。



「…なぁ、部室の鍵持ってるんやろ。お前最後っぽいやん。ちょぉ入れて。」
「え…」
「ゆっくり話そ。」




ユウジさんに手をつながれる。いつもは幸せな気持ちになれるのに、今日はそれどころやない。心臓が痛い。話すって、何を?





ほとんど顔も上げられないまま部室に入った。自分の心臓の音がやばい。そんな中、ユウジさんはごそごそとかばんの中をあさりながら話し始めた。



「あのさー、最近の課題のテーマが、ウエディングやってん。男はウエディングドレス、女はタキシード作らなアカンってゆーテーマでな。俺、お前が好きなカーマインの生地でドレス作ったん。えらい目立ったでー赤。せやけどさ、お前にドレス着せるわけにもいかへんやん。せやから、これだけ、な。」




いつもだらだらしとるユウジさんがこんなにぺらぺら話すのは、漫才の時、それと、照れているときだけ。俺が思わず顔をあげると、頭にふわっと何かをかけられた。部室の窓を見ると、俺の姿がうまい具合に反射してうつった。これ、ユウジさん、



「うん、かわええかわええ。お前やっぱ赤系に合うな。肌白いからやろか」



俺の頭にユウジさんがかけたのは、カーマイン色のウエディングベール。俺が不安になっている間も、この人は俺のこと信じてくれて、俺のことばっかり考えて、着れるわけもないウエディングドレスの色まで俺の好きな色で作って、あぁ、もう。あんたは俺をどうしたいんや。こんなにも好きにさせて、こんなにも俺の心揺さぶって。



「俺、知っとると思うけどそこまで性格よくないから。お前が寂しい思いしとっても自分が忙しいとなかなか気づいてやれへんし。知っとると思うけどめっちゃ自己中やし。せやからマメに連絡とかも、これからも出来へんと思うんや。それでも俺、お前と別れる気全くないから。他人に合わせるのもメールするのも得意やないけど、お前が離れていくくらいならなんでもする。寂しいなら会いに行く。泣きたいときはひとりにせぇへん。せやから、自然消滅狙うとかありえへん。お前のことこんなにも好きなこと、否定されるのはたとえ光でも許せん」
「ユウジさん…」


「俺は、病める時も健やかなる時も、寂しい時も辛い時も会えへん時もお前のこと愛してるよ。光は?」
「…これ、結婚式の誓いの言葉のつもりっすか」
「せやで。お前頭にのっけとるもん何か分かっとるやろ。お前も早く誓え、俺への愛を!」
「………俺も、病める時も健やかなる時も、ユウジさんが浮気しても愛してます」
「せぇへんわ、阿呆。本間可愛くない」




ユウジさんはベールをふわっと俺の頭にかけて、そのままキスをした。優しくて甘くて長いキス。くちびるが離れたとき、「嘘、本間可愛い。ずるいわお前」って珍しく顔を赤くして言った。




不安になる時もある。寂しくなる時もある。せやけど、俺がユウジさんをこんなにも大好きやってことはこれからもずっと変わらないから。これからはもっとわがまま言うてやる、覚悟しとけ。



いろいろ伝えたいことはあった。せやけど、いざ一生懸命作ったウエディングベールを俺の頭に乗せて、愛おしそうな目で見つめてくるユウジさんを目の前にすると、「愛してる」しか出てこなくて。
言葉で伝えきれない言葉を伝えるために、今度は俺から、愛しい愛しいユウジさんにキスをした。







***
ユウ光ちゃんはちゅーしまくってるイメージが勝手に私の中にあります(笑)
男前ユウジ推奨!
タイトルは財前くんの照れ隠し的セリフです(笑)
宇井さま、リクエストありがとうございました!





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