sayonara future



謙光で切→甘
葉月さまリク











「お、こんなところにおったんかいな。冷えるで」



憎らしいほど青い空と、間に合わず咲くことの出来なかった桜のつぼみ。今日は、卒業式。謙也さんとこの校舎で一緒に過ごすのは、今日が最後だ。式にはちゃんと出た。終わった後部室で三年生追い出し会がある、というのは聞いていたけど参加する気になれず、俺は一人屋上にいた。まぁ、謙也さんに見つかってしもたんやけど。



謙也さんは、この学校を卒業する。それは、俺も謙也さんから卒業するべきやということを物語っていた。



この学校に入学してから、いろいろなことがあった。友達が出来た。勉強もした。テニスがすごく楽しいことに気がついた。上級生からいじめられた。悔しいと思った。生まれて初めて、強く負けたくないと思った。謙也さんと出会った。優しくしてもらった。恋をした。抱きしめられた。幸せをもらった。たくさんの涙をこぼした。


それだけで十分なのだ、俺の学生生活というものは。
こんなにも愛してもらえて本間に俺は幸せ者。俺も謙也さんのこと、愛してる。せやからこそ俺は、彼の未来も愛したい。愛するということは、大切にするということによく似ている。彼の未来を大切にしたい俺に残されている選択肢はひとつだけ。彼が正しい道を歩くには、俺は不要な存在。



本間はもっと早く離れるべきやった、と反省している。もっと早くお別れの言葉を伝えるべきやった。今でも別に謙也さんからの愛情を疑っているわけやない。彼は本間に俺のことを好きやと思う。せやけど、たとえ傷つけることになろうとも、きっと傷は癒える。それなら早い方がいい。自分は早く彼の目の前から消えよう。ひっそり思い続けることくらいは許されるやろう。そう思ってたはずやのに、言えなかった。やって、あまりにも幸せな日々が続いたから。あまりにも彼が俺を大切にするから。何度も何度も心の中でしたサヨナラの練習は、いつも喉元に詰まったままだった。




でも今日は言う。ちゃんと言う。はっきり言う。
もし今日を逃してしまったら、完璧にタイミングを失う。ちゃんと区切りをつけるんだ。



「…卒業おめでとうございます」
「お、ありがと!なんや寂しなるなぁ。でもまぁ光と離れ離れなんもたったの一年やもんな。そのくらい我慢せなあかんよな」
「謙也さん、今までありがとうございました」
「え、どしたん。今日めっちゃ素直やん。さては光君、センチメンタルってやつか〜?かわええなぁ」



「………この2年間、俺の恋心に付き合ってくれてありがとうございました」



言った。ついに言った。自分でもわかるくらい声が震えている。謙也さんの方一瞬も見れへん。もし今顔見たら泣いてまう。自分の心臓の音がやばい。




「…いっこだけ聞いてええか」
「はい」
「その結論、お前どのくらいかけて出した?」
「…1年半」



1年半。俺と謙也さんが付き合っていた期間。奇跡が起こって謙也さんが告白してくれて、そんな幸せの絶頂の中でも頭にずっとちらついていた。
本間に俺は謙也さんと付き合ってええのか?
俺に謙也さんを幸せに出来るのか?
謙也さんは後悔しないだろうか?
いつもそんなことを考えて、頭を悩ませて、謙也さんに抱きしめられる度にそんなこと全部忘れて幸せに浸って、一人になったときに思い出してまた悩んで。そんな堂々巡りをもう何周したやろうか。



「………なぁ。お前の恋心とやらはもう2年で終わったかもしれへんよ。せやけど、俺のはどーなんの?めちゃめちゃ現在進行形なんやけど。」
「………。」
「…光がそういうなら、分かった。せやけど、お願いがある。最後に我儘ひとつ言うてくれ。なんでもええ。最初で最後のでっかい我儘、俺に聞かせてくれ。お願いや。」




今謙也さんの方を向いたら、きっとぼろぼろに泣いてしまう。せやけど、こればっかりはちゃんと目を見て伝えなければいけない。俺は謙也さんのほうを向いた。あぁ、愛おしい人。視界がぐにゃりと歪む。さっきよりももっともっと震えた情けない声が出た。




「おれ、の、いちばんおっきなわがまま。謙也さん。どこで、だれと、どんなふうになっても、絶対しあわせでいて。絶対絶対、しあわせでいて。それで…俺のこと忘れないでほしい。男の俺と恋人同士やったこと、後悔する日が来るかもしれへんけど…なかったことには、しないでほしい。」




涙がこぼれ落ちそうになった瞬間、謙也さんに強く強く抱きしめられた。やめてくれ、余計に涙が出てくる。決心が鈍るじゃないか、俺はまだまだあんたのことが好きでたまらないんだから。




「…さっきは怒ったような声出してもうたけど、俺、分かっとるから。光、本間に俺のこと大事にしてくれとんねんな。そんなに震えた声で別れましょうなんて言われたってな、『謙也さん愛してます』って聞こえるだけやで。それに俺、我儘言うてくれって言ったんに、そんなかわええこと言って。そんなお前のこと、手離せるわけないやんか。」



おでこをこつんとくっつけられる。謙也さんももうこぼれ落ちそうなくらいいっぱい涙を瞳に浮かべて、へらって笑う。




「俺、いっしょにいたいよ。光とずっと一緒にいたい。周りに間違ってるって言われても、俺にとっては光と一緒にいることが大正解やもん。それに、後悔なんて絶対せぇへん。やって、こんなにもお前のこと好きになれたんやから。」
「け、やさ…」
「それになぁ、お前のことこんなにもこんなにも大好きになってくれる人、きっとこれからも出てこぉへんで。俺、光を思う気持ちなら誰にも負ける気せぇへん。そんな奴に愛されてみ?めっちゃ幸せやで。」
「うん…。」
「光にもきっと後悔させへんから、これからも一緒におってほしい。あかんかな」





ここまで言われてあかんなんて言える奴がおったら教えてくれ。もう知らん。この人があかんねん。この人が馬鹿で阿呆で優しすぎるからあかんねん。…やっぱり俺、本当はこの人と一緒にいたいんやもん。




「…第二ボタン、ください。来年は、お返しに俺のあげるから」




謙也さんの笑顔がぱぁって咲いた。桜は間に合わなかったけど、この人の笑顔は満開で、ついでに二人の目から涙がこぼれて。俺たちは、優しくくちびるを合わせた。





これからも俺は、ずっとこの人が好きなんやと思う。ずっとずっと好きなんやと思う。でももう悩まない。この人のことが大好きだ、という気持ちだけは絶対に曲げない。



愛するということは、大切にするということによく似ている。この先も俺は、謙也さんを大切にして、彼の過去も未来も現在も全部愛して。たくさん大事にし合いながら、共に未来に向けて歩んでいくのだ。
桜の開花は、もうそろそろのようだ。










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今年はまだ書いてなかったし切甘といえば卒業ということで!
タイトルの意味は謙也さんが一緒にいない未来はさようなら、的な感じです。
葉月さま、リクエストありがとうございました!





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