プリーズドンゴーエニモア





謙光♀で(精神)入れ代わり話
えこ。さんリク









うちは今、片思い中の謙也先輩と二人きり。しかも場所はラブホ。そしてお互いの服を脱がせ合おうとしている…。そんな夢のような状況で、夢以上にありえないことが起こっている。



「先輩、ぬ、脱がしますからね…」
「ん。大丈夫やで、目つむっとくし」



そう。うちは今、目の前の自分自身の着替えをさせている。しかもその自分の中に、謙也先輩の心が入っているのだ。



まぁ、言葉にするとややこしくて意味がわからんから簡潔に言う。謙也先輩とうちの中身が入れ替わってしまったのだ。







話は今朝にさかのぼる。珍しくテニス部男女とも部活がお休みで、うちは家で一日だらだらするつもりやった。昨日は夜遅くまで謙也先輩とメールのやり取りが出来てとっても嬉しかったなぁ。少し夜更かししてもうた。最近謙也先輩と前よりも仲良くなれて幸せ。共通の知り合いの白石先輩が取り持ってくれたおかげで、ただのあこがれの先輩やった謙也先輩は、結構身近な存在になっていた。少し前にようやくアドレスを交換して、ときどきメール交換をするようにまでなれたのは大成長や。



昼まで寝てやろうと思ったのに、急に目が覚めてしまった。二度寝しようかと思ったけど、ある異変に気付く。…天井の色が違う。



「謙也ぁ、いつまで寝てんの!!!」



ドアの外から声が聞こえた。うちの家族の誰の声でもない。それより今、なんて?…謙也って言った?


恐る恐る鏡を見てみると、そこにいたのはうち、財前光やない。
憧れの人、忍足謙也先輩の姿があった。大絶叫しなかっただけ褒めてほしい。



こんなこと信じられない。うち、謙也先輩になってる…?!と、思って慌てていたらけたたましく謙也先輩の携帯が鳴った。どうやら着信のようや。出るべきか悩んだけど、ディスプレイを見てみると『財前 光』の文字。うちは慌てて電話を取った。



「もしもし」
わ、謙也先輩の声。本間にうち、謙也先輩になってしもたんか。



「………財前?」



うちの声がうちの名前を呼んで、あぁ、うちら入れ替わってしもたんやなぁって実感した。こーゆーのって普通漫画とかでは頭思いっきりぶつけたりして入れ替わってまうんやないの?



「謙也先輩。うちら、どうなってしもたんですかね」
「なんや、冷静すぎるやろ!この状況ありえへんわ」
「いや、めちゃめちゃ焦ってますよ今。どないしよう」
「とりあえず会おう。俺たちが離れとったら余計ややこしなる」




そんなこんなで、うちらは家技のまま家を飛び出して、近くの公園で会った。



「謙也先輩…」
「財前!こっちやこっち!」



いつものうちと同じ顔やのに普段より少し可愛い気がする。それはたぶん、中身が謙也さんやから。そしてうちが入ってる謙也さんは普段よりずっと仏頂面なんやろな。



「とりあえず、どうしてこうなったかは分からんけど俺たちが離れて行動するのは危険すぎるな。元に戻るまでは一緒におった方がええやろ。必要なものは一緒に買いに行けばええし」
「そうですね…。」



そこでハッとした。うちの中に謙也さんが入っとるってことは、なんでも見放題ってことで…着替えとかの時に謙也さんはうちのちっちゃいおっぱい見てしまうということで…!うちはうちで、謙也さんの体を見ないと着替えれないということで!!



「絶対アカン!!!」
「うわ!どないしたんや!」
「謙也先輩、元に戻るまで絶対ずっと一緒にいましょ!そんで、お互いのことし合いっこしましょ!ね!」
「お、おん。せやな!」



それからはお互いの必要なものを買い集めて、うちは家に友達の家に泊まりに行く、という嘘の連絡を入れた。こんな状態になってしもたけど、こんなにも一緒に二人きりで過ごすのは初めてで、やっぱりどこか嬉しい自分がいる。なんて、言ってられないんやけど。



それからしばらくして、どこか寝るところを確保しなくては、という話になった。せやけどお金もあんまりないし、この辺の漫喫は手当たり次第探したけど、今日に限ってどこも個室は満席。あんまり遅くまで外におったら二人とも補導されてしまう。こんな状況やし部活にも響くしそれだけは絶対に避けたい。
そんな状態でうちらがたどり着いたのは、ラブホやった。そして冒頭に戻る。


どうしても謙也先輩にうちの裸を見られるのが恥ずかしくて、お互いの着脱衣をお互いが行うことを提案した。謙也先輩は「財前がそうしたいならええよ」って言ってくれた。



目の前には、目をつぶった状態の財前光。中身は大好きな謙也先輩。無駄にドキドキしながら服を脱がす。…やっぱり、客観的に見てもおっぱいちっちゃい。こんなの謙也先輩には絶対見られたくない。でも、見た目はうちとはいえど謙也先輩の服を脱がせてるこの状況のほうが恥ずかしいような気もする。失敗したかな。



「…はい、出来ました」
「おおきに。じゃあ次財前の番な」



なんとかうちが謙也さん(の入った自分)の着替えをさせたのもつかの間、今度は謙也先輩がうちの服を脱がせ始める。さっきよりももっと恥ずかしくてたまらなくて、目が開けられない。


「財前、ごめんけどちょっとしゃがんで」
「あ、はい」


やっぱり謙也先輩は大きいんだな、と思う。そして入れ替わってみて初めて分かった。謙也先輩にとってうちは本当に小さいんだ。さっきまでの恥ずかしさがふっとんで謙也先輩と一緒にいられた嬉しさのせいで忘れていた不安がもう一度舞い戻ってきた。このまま一生この状態やったら?うちらはどうすればええんやろ。



「…はい、出来たで財前。」
「う、ひっく、うえ…!」
「わ、財前、どないしたん?!」
「うぇ、謙也先輩、う、うぅう…!」
「不安になってしもた?大丈夫か?ってなんや自分が泣いとる姿見るのってなかなかシュールやな。声が太い。」
「ふぇ…!」
「あーもう、今日は寝よ。あんまり深く考えても仕方ないもんな。な、財前。今日は心細いやろうけど、俺も同じやねん。せやから一緒のベッドで寝ぇへん?財前が嫌やなかったら。そっちのが安心できると思うねんけど」
「…う、うち、うちもいっしょがいい。」
「うん。ほなベッド入ろう」



謙也先輩と一緒に布団をかぶる。謙也先輩は今は小さい体なのに、一生懸命うちを抱きしめてくれた。自分のこんなに優しい笑顔は初めて見る。やっぱり、見た目が変わっても謙也先輩は謙也先輩や。優しくてあったかい謙也先輩や。



「な、財前。不安なのは分かるけどさ、ひとりじゃないやん。俺も一緒やんな。せやから大丈夫。一人で悩む必要なんか全くないんやで。」
「うん…」
「それに、俺は相手が財前でよかったって思っとるよ。一生懸命解決するように考えてくれる財前でよかった。俺もこれからのこときちんと考えるから。」
「謙也先輩、ありがとう…」
「うん。もう寝よか」
「あの、」
「ん?」
「手、繋いでてもええですか…?」
「え、」
「嫌やったらええんです」
「嫌なわけないやん!」
「ありとうございます。おやすみなさい、謙也先輩。」
「うん、おやすみ」




その日は眠れるわけない、って思ってたのに、謙也先輩のおかげでぐっすり眠れた。うちも、相手が謙也先輩でよかったって思う。他の誰でもなくて、謙也先輩で、よかった。







次の日、目を覚ますと謙也先輩が「おはよう、財前」って言ってくれた。彼は姿も声も謙也先輩で。あぁ、無事元の体に戻れたんや…!




「本間、元に戻れてよかった…!」
「せやな!目覚めたらもうこの姿やってん。ほんま、何やったんやろ」
「あ、このまま行けば今日の部活間に合いそうですね」
「せやな。もうここ出よか」



かばんに荷物を詰めて部屋を出る。あまりにも非日常的な出来事やったけど、好きな人の体に心が入ってしまうやなんて、案外素敵な経験やったんかもしれへん。



「いったん家戻ってラケット取りに行かなあかんな」
「そうですね。荷物も置きに行かなあかんし」
「…なんか、この事件のせいでますます財前のこと好きになってしもた」
「へ、」
「ほな行こか」




うちの方も見ずにさらっと告げられた言葉。聞き逃してしまいそうなくらい自然に出たその言葉に驚いて謙也先輩の横顔を見ると、顔は真っ赤やった。
お互いがお互いの体に入っていたせいか、いつもよりお互いを近くに感じていつもより相手の考えが分かる気がする。ねぇ、謙也先輩、それって、それってうちのこと、




「ねぇ、謙也先輩、あのね、」




あのね、伝えたいことが、たくさんあるの。昨日の夜のように、あなたの手を握れば勇気が出て伝えられるかもしれない。ねぇ、聞いてくれる?


突然のハプニング。背中を押してくれた、素敵なハプニング。相手があなただったからこそ、大事な思い出にすることが出来た。非日常的な出来事ついでにもう少しだけ頑張って、あなたの特別になれたらいい。思いを伝えられたきっかけが互いの心が入れ替わったから、だなんて、なんてロマンチック。



「ごめん。やっぱ俺から言わせて」



ロマンチックすぎるハプニングに感謝して、うちは幸せな気持ちで彼の言葉の続きを待つ。繋いだ手の暖かさは、一生忘れることは出来ないと思う。








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今まで書いたことのないような設定で楽しんで書けました!
えこ。さん、リクエストありがとうございました!






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