心の中で僕を呼ぶ声は、確かにあなたのものでした。





萌さま、もりさわさま、ユズちゃんへ
2万フリリク企画
「瞳に映るものが真実で、僕らに言葉は必要なかった」の続編










『心の中で僕を呼ぶ声は、確かにあなたのものでした。』



「だからそれは謙也さんが…!!………はぁ、もうええっすわ、すみませんでした」
『なんで言いかけてやめんねん!』
「もうええ言うとるやろ」


謙也さんは声は出ないけど優しくて、声は出ないけどかっこよくて、声は出ないけどあったかい。

でも逆に言うと、優しいけど声は出ない。かっこいいけど声は出ない。あったかくても声は出ないんや。


俺は謙也さんが大好き。謙也さんも俺を好きやって言ってくれる。それだけで俺は十分すぎるくらい幸せやった。

せやけど、どんなに仲良え夫婦でも、喧嘩はするやん?俺らはしたことないねん。喧嘩になりそうになると必ず俺はそれを放棄する。理由は、謙也さんが話せないから。紙に文字を書かれて反論されて、それに言い返して。それやと結局俺ばっかが文句言うてまう気がするし。俺そこまで甲斐性無しちゃうわ。



謙也さんが声出せんくなった理由は事故。それも子供を庇ってやぞ。助かった子供はこれからの人生でかい声で笑って生きてくんや。神様、どうして。なんで謙也さんから声を奪ったの?





音なんか要らないと思ってた。謙也さんとくっついて、キスして。それだけで幸せやと本気で思っとった。

でも好きな人に「愛してる」と言われたいっていうのは、当たり前のこと。謙也さんの声が聞きたい。いつの間にか俺は願ってはいけないことを願ってしまっていた。
謙也さんの声が出ないのなんて、初めから分かっとったはずやんか。それでも俺は謙也さんやなきゃだめで。


『なぁ光、思ったこと言うて。おねがいやから。おれ、そんな弱ないで』
「…なんで、なんで謙也さんは、」












…危なかった。言うてしまうとこやった。「なんで謙也さんは喋られへんのですか」って(ごまかすように抱き着いて事無きを得たが)。
こんなの、俺らしくないわ。…いや、俺ららしくない。謙也さんが話せんのなら、俺が2倍言えばええだけの話や。

「謙也さん、ごめんなさい。愛してる」
ひたすら愛してるんだよ、本当に。









その次の日から謙也さんは変わった。変わったとは言ってもいつもの優しい謙也さんやけど、素っ気ないというか、よそよそしいというか。えっちも全然してへん。お泊りも無し。

俺が言おうとしてたこと伝わってまったんかな。怒らせた?傷つけた?
ごめんなさい謙也さん。大きく笑うけど、実は人一倍繊細な謙也さんに、一瞬でも不安を感じさせるべきやなかった。音にならなくてもいい、やって俺らの気持ちは本物やから。


謙也さんの家に向かう。どんな口実を作ろうか。まぁいいや、会いたかったんです。って素直に言おう。あとせっくすしたいですって言うたらどんな反応するかな。







謙也さんちに行くとおばさんが出た。
「あら光くん、いつもおおきにねえ」
「いえ。あの、謙也さん」
「部屋におるよ。でもあの子今ちょいふさぎ込んどるで励ましたってな」


ごめんなさい、ふさぎ込ませとる原因は多分俺っすわ。
こっそりと謙也さんの部屋を覗くと、部屋の端っこで座っては耳を押さえとる謙也さんがおった。近付くと、口からひゅーひゅーと息を吐く音がする。次の瞬間、思い切り息を吸いこんだ謙也さんは咳込んだ。


「謙也さん!!大丈夫ですか?!」
くちびるが動く。
『ひ か る、』
「何しとったんですか、」

すぐそばにあったノート開いてボールペン握らせたら泣きそうな顔していやいや、て首振った。俺の肩をぐっと掴む。そんで、また口からひゅーひゅーと息を出す。くちびるの形で、何言うとるか分かってまった。
















『す』 『き』








「もしかして謙也さん……声出す練習しとったんですか」
ようやく悔しそうにペンを握る謙也さん。
『光に辛いおもいばっかさせてごめんな。すきって言ってやれんくて本間にごめん。練習したけどムリ、かも』




ああ、この人はどうして。俺が言おうとしてることを既に分かっていた。前話してくれたじゃないか。事故のとき深く声帯が傷ついて、もうどんなリハビリをやってもどんな治療を受けても声を出すことは不可能やと宣告されたと言ってたじゃないか。それなのに今までずっと俺のために声を出そうとしていたって言うのか。最近いそいそと家に帰ってしまったのはそのせいだったのか。

俺の言葉に腹を立てたんじゃなかったのか。なんであんたが謝るんだ、泣きそうな顔をするんだ、辛い思いをして声無き声を絞り出すんだ。




「謙也さん、愛してる。ずっとずっと愛してる。謙也さんだけ、ずっと俺には、ずっと謙也さんだけや…っ」




もう本間に、音なんて要らないんだよ。今なら分かる。神様は謙也さんの声の代わりに優しさと強さを与えたんだ。


傍にいてくれるだけでええ。一緒に笑ってくれとるだけで十分。時々泣いたり怒ったり、これからはちゃんと喧嘩だってしよう。


『光、俺も愛してる』
確かに聞こえた。優しくて甘い、世界で一番美しい音。
それは、あなたの声。















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このお話はなかなか思い入れがあって、いつか続きを書きたいなぁと思ってリクいただけて嬉しかったです。

萌さま、もりさわさま、蜜凪さま!みなさまの優しいお言葉に感謝しております!
そして企画参加ありがとうございました!!


2009.11.4 アリア


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