more than ever




謙にょた光で切甘
もにゅんさまリク










「おはよー謙也」
「おう、おはようさん!」
「おはよー」





いつも通りの朝、いつも通りの友人たち、いつも通りのあいさつ。




「謙也さん」




そして、いつも通りの声をかけてくる女の子。




「おう、光。おはようさん」
「おはようございます」
「ははっ、お前今日もえらい眠そうやなぁ」
「しゃーないやないですか、低血圧なんです」
「しゃきっとせんと!白石に怒られるでー」
「…謙也さん」
「なん?」



「今日も好きです。」



「…おう、ありがとな。」
「はい。ほな朝練頑張りましょ、お互い」
「おう、せやな」





光は女子テニス部の、一つ下の後輩。つんけんしとる態度をとったり毒舌だったりするけど、本間は心優しい女の子。華奢すぎる体につややかな黒髪、大きな瞳。光はよくモテたし、実際男子テニス部の中にも光のことを好きなやつは何人かおった。そんな光が好きなのは、俺やった。俺はと言うと…光のことをただの後輩以上に見たことはなかった。


たしかに光はかわええ。頭も良いし実は優しいし、スコートから延びる足はまぶしい。せやけどなんだか、妹みたいな感じで。かわいらしいとは思っても俺が光に対してドキドキしたことは一度もなかった。



光は俺に告白してくれた。俺はそれを断った。せやけどまた告白してくれた。俺はその思いにこたえられなかった。好きな子もおらへんし、かわええし人気もある光を彼女にすることは簡単なことなはずやった。せやけどそれはどうしても出来へん。光の、俺への気持ちがまっすぐすぎて…良くない言い方をするなら、重、すぎて。俺は首を縦に振ることが出来ない。


それから光は、俺にあいさつ代わりくらいのペースで「好き」と言ってくるようになってしまった。おはようございます好きです。こんにちは好きです。お疲れさまです好きです。光はもう半ばヤケになっとるんちゃうかなぁって思う。こんなの良くないに決まっとる。こんな状態が続いたら、光は新しい好きな人ができへん。せやから俺がきっちりはっきり断ってやるべきなんや。それが本間の優しさっちゅーもんや。



せやけど、俺にはなぜかそれが出来へんかった。って出来ないことだらけやな、俺って。せやかてしゃーないねん。光が傷つく顔、見たくないやん。







先生に雑用を頼まれて資料室に寄った帰り道。どうせならいつもと違う通路で教室まで帰ってみるか、と廊下をフラフラしていた。普段ほとんど使われることのない空き教室。そこからひそひそと声がするのが聞こえた。盗み聞きするつもりなんてなかったけど、思わず足を止めてしまった。この声は、ユウジと、光。



「…ユウジ先輩、話聞いてくれてありがとうございました。」
「アホ。余計な気回すくらいならしんどそうな顔すんなっちゅーの」
「……すみません」
「冗談やわ。お前は気張りすぎなんじゃ」


光の表情はここからは見えない。泣いてはいないようやけど、声は暗い。ユウジは途端に真剣な表情を作った。




「なぁ、光。」
「なんですか?」
「俺にすればええやん。」
「え…」


「謙也は確かにええやつや。せやけど、光は謙也に傷つけられてばっかりやんか。苦しんでばっかりやんか。俺なら、そんな気持ちにさせへんよ。」
「先輩…」
「俺は謙也のこと好きな光のこと、好きになったから。せやからええねん。謙也のこと好きでもええねん。これから絶対振り向かせたる。せやから、…俺と、付き合おうや」



胸のあたりがぎゅっと苦しくなった。光を傷つけていたから?ユウジのことも苦しめていたから?…いや、違う。光が他の奴のところに行ってしまうかもしれないからや。光の気持ちに応えてやれなかったのはほかでもない俺。せやのに、いつのまにか光が俺を好きなことをあたりまえなことと思いこんで、心地よさを感じて、現状に満足して。俺が光に何もしてやれなかったのは、俺が幸せやったからや。自分の都合のままに動いてたからや。




「ユウジ先輩、ありがとう。でも、ごめんなさい。」
「光…。」
「うち、ムキになっとるとか、そんなんやなくて、本間に謙也さんのこと好きなんです。どこが好きなのかとかそんな段階はもうとっくに通り過ぎてて、ただ、人としてすごくすごく、好きで。」
「………」
「本当、うち、いつまで謙也さんのこと好きでおればええんやろね。アホでしょ。笑ってやってください」




ガツンって頭を殴られたような感覚。光は俺のこと好きなんや、本間に。俺は、自分に問いかけてみる。俺は光をどう思う?ただの後輩やと言ってふったはずやった。ただの後輩のはずやった。それならなんでこんなに胸が苦しい?本当は、答えはもう分かっているはずだ。ずいぶんと遠回りしてしまったけど、まだ間に合うやろうか。











部活を終えると、光がいつも通り俺のもとへ駆け寄ってきた。


「謙也さん、お疲れ様です。」
「おう光、お疲れさん!」
「今日思いっきりこけてましたよね」
「ちょ、何見とんねん!」
「めちゃくちゃ阿呆っぽかったです」
「おい、そこはフォローするところやろ!」
「ちゃんと消毒してくださいよ」
「へいへい。白石みたいなこと言うなっちゅーの!」



光の小さい手が、俺の服の裾をつかんだ。


「ほな、お疲れさまでした。謙也さん、今日も好きでした。」




俺は、少し遠慮勝ちに、初めて、その手を握り返した。




「うん、ありがと。俺も好き。」





「そんなの嘘」とか「信じられへん」とか俺をバシバシたたき始めた光の腕を少し強引に引いて、思い切り抱きしめてやった。光は真っ赤な顔して泣き始めて、あぁ、もっと早く自分の気持ちに気がつけばよかった。せやけどやっぱりうれしい。光が俺だけのために泣いてくれることが。




「光、本間遅くなってしもたけど、これからはちゃんと、光にもっと笑ってもらえるように頑張る。辛い思いさせへんように頑張る。せやからこれからも俺のこと好きでおって。」




光は泣きながらやけど、照れたようにやっと笑ってくれて。俺は光を好きやという気持ちを噛みしめる。これからは光が「好きです」と言うよりも早く、俺のほうから伝えてやろう。好きの重さではもう負けへん気ぃするわ。


光の涙が俺の制服の胸のあたりを濡らして、これからは泣かせたくないな、せやけどもしも泣くことがあるなら、それは俺のためがいいな、なんて自己中なことを考えながら、光の額に自分のそれをくっつけながら思った。











***
謙也さんってばいやな男!
これからはめちゃくちゃ光ちゃんのこと大事にするので結果オーライってことでおねがいしますね!
もにゅんさま、リクエストありがとうございました!





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