傷口から蜂蜜




謙光で、最初は光→謙也で光の片思いで謙也に告白するもフられる。離れていく光を見て自分の気持ちに自覚する謙也→光で最後はハピエン
菜々さま















可愛い女の子が好きだった。可愛くて優しくてほんわかしてて、そういえば俺が見るAVは大体ロリ巨乳制服モノやなぁ、ってそれは関係なくて。


そんなわけで、どんなに可愛がっている後輩と言えどもお付き合いするなんて考えは無いのだ。




「え…すきって、俺を?」
「はい」
「ちょ、冗談きついで」
「冗談ちゃいます」
「またまたぁ」
「………ほな、冗談っちゅーことで。もっとがつんと騙されてくれんと困るわぁ」
「おぉ、悪い、?」
「ほなお疲れさんっした」




あれは冗談なんかじゃなかった。後輩は、俺と同じ男である後輩は、財前光は。俺のことが、好きだったのだ。







よくひとりでおるやつやと思った。一人が好きなのかとはじめは思っていた。せやけどホンマはみんなに混ざりたいんやなって、それが上手いこと出来へんのやなって、気づいたらどんどん可愛くなってしもて。一緒に過ごす時間が増えていった。


後輩はみんな可愛かったけど、光は特別可愛かった。素直になれない光が俺を頼ってくれるのを見ると、野良猫が懐いてくれたような気持ちになる。それに光とは趣味が合ったから一緒にいるとホンマ楽しかった。


そんな光が、俺のことを恋愛対象として見ていたなんて。



俺的にもなかなか衝撃的な出来事ではあったけど、それで軽蔑するとか引くとかはあらへん。やっぱり大事な後輩やしな。これからも変わらず仲良くやっていきたいし、可愛がりたい。せやけどそれは俺の自分勝手な考えやったんや。光の一世一大の告白をあんなふうに流して冗談にさせてしまった俺に、そんなことを望む権利なんてなかったんや。





無口に見えていろいろ俺に話してくれた光。その相手は今は俺ではなく白石やユウジになっていた。ダブルスは続けている。調子も良い。せやけどそれ以外のことで話はほとんどない。帰りも一緒に帰っていたのに今ではそっちが嘘みたいや。心の中にモヤモヤが広がっていく。胸が締め付けられそうだ。







ある日、光は白石に深刻そうな顔で話をしていた。表情が曇っている。白石は肩を叩いて光を励ましているようやった。そのあとすぐ、光は部室へ向かった。俺は思わず声をかけてしまう。


「光!」
「…なんすか」
「今日、もう帰るん?」
「はぁ。今日ダブルス練無いからええやろ」
「や、そういう意味とちゃう。どないしたん?体調悪い?」



光は溜め息をひとつついた。



「甥っ子。熱出してもうたから保育園迎えに行くんです。義姉さん今日おらんから」
「え、そうなん?!」
「せやから帰ります。お先っす」
「待て!俺も行ったる!」
「はい?」
「お前歩きやろ。俺チャリやし!ゼリーとか買ってったるし!」
「そこまで頼んでないです」
「遠慮しなくてええから!」
「ちゃいます!!」



光が一番に笑顔を見せる存在。光が一番に伝えたいことを伝える存在。それが恋とは気づかなかったが、誰かは気づいていた。そのポジションに満足し、うれしく思っている自分がいたのも確かやった。



「いつまでも俺があんたのこと好きやと思ったら大間違いや」
「え、」
「そっとしといてくださいっちゅーことですわ」






嬉しかったのだ。
今になって気づく。俺は、光からの好意が嬉しかったのだ。光の特別が他の誰でもない自分であること。男同士やのに、感情を伝えてくれたこと。物凄い勇気やったはず。もちろん聞いたとき戸惑った。せやけど今、光が俺以外を好きになることを想像して、怖くなった。淋しすぎて怖くなった。


俺は馬鹿だ。こんなふうになるまで自分の気持ちに気がつかないなんて。






「光!!やっぱお前のことほっとくなんて出来へん!!」



光の手首を掴むと、睨まれた。涙をいっぱいいっぱい溜めた目で。あぁ。光はホンマにほっといてほしかったわけやなかった。まだ俺のこと一生懸命好きでおってくれたんや。



「なぁお願い。俺もチビのこと心配やから一緒に行かせて。」
「………」
「チビ抱っこして帰るやろ。お前の荷物持つから。な?」
「………うん」








揃って部活を早退して保育園に向かう。ぐずついていた光の甥っ子は光に抱っこされるとすぐ眠ってしまった。
光の隣を歩くのが、とても久々に感じた。




「光って見た目に似合わず優しいよな。甥っ子迎えに行ったったりしなさそうやのに」
「見た目に似合わずって余計やわ」
「光、ごめんな」
「…今更ええですわ。冗談やって言ったでしょう」
「………なぁ。お前、優しいよなぁ」
「は?」





「これからも、俺に優しくしてくれへん?俺もお前に、一番優しくするから」
「……回りくどい。はっきり言え」
「お前のこと好きになった」



光はさっきよりも目を潤ませて、「遅いわ、アホ」て笑った。




大切なものって案外近くにあって、近いが故に気付けなかったりとか、傷付けたりとかしてしまう。俺は典型的なそれで光を傷付けた。


せやけどもう分かったから。こんなにも可愛くて、めちゃめちゃに甘やかしてやりたいって思うのはこいつだけやから。



スピードスターやのに、気付くの遅くなってごめんな。そのかわりこれからめちゃくちゃ大事にするから、ちゅうくらいは許してほしい。


そんなことを思いながら、少し赤く染まった頬に触れて、胸に広がる甘い感情を噛み締めた。












***

これから光たんは謙也さんにめちゃくちゃ甘やかされるんだろうなぁ。
でも一回痛い目あってるからなかなか謙也さんを信用しない光とかもいいんじゃないかと思います(笑)
菜々さま、リクエストありがとうございました!





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