おもいおもいにゃんこ




けんにゃさんとひかにゃんと謙光のお話
ヒサナさんリク













「人間の魂の重さって、21グラムらしいすわ」
「え、そうなん?」
「死ぬ直前の人の体重と、その人が死んでもうたあとの体重量るときっかり21グラム減っとるらしいですよ。映画で見た。ホンマか知らんけど」
「へー。そうなんか。なんや思ったより軽いんやなぁ」
「嘘や。俺は0グラムかと思ってました。目に見えへんもんやから重さとか無いんかなぁって」
「あーそれも一理あるなぁ」
「謙也さんの魂、5キロくらいありそうっすね」
「え!ホンマか!」
「あ、褒めてないですよ」


謙也さんと光がにゃんだかむずかしそうなお話をしている。俺は眠たくて眠たくて、あんまり聞いてへんかったけどぼんやりと思った。
猫の魂は、何グラム?













朝早く、きみどりいろときいろの服を着た光が大きなラケットバッグを担いで出て行った。ぜんこくたいかい?というやつらしい。昨日の夜、光は中々眠れなかったみたいで、俺を何度もぎゅうってした。きっと、テニスの試合というやつや。俺は詳しいことは知らないけど、光がテニスをしとることは知ってる。めちゃくちゃ頑張っていることは知ってる。どうやらテニスは勝ち負けが決まるものらしく、光は謙也さんと一緒にやるらしい。光に勝ってほしいにゃ。光、頑張って!



ひかにゃんとうちの周りで遊んどったら(デートっちゅーやつにゃ!)辺りが少しずつ赤くなっていることに気がついた。夕日が落ちはじめとる。光はまだ家に帰ってきとらんらしい。光、勝ったのかな。それとも負けちゃったのかにゃ。元気でいるかな。泣いてないかな。謙也さんに泣かされてないかな。


俺があまりにそわそわしとるもんやから、ひかにゃんが「光くんのこと迎えに行こう!」って言ってくれた。俺達は光と謙也さんがよく寄り道をしとる公園を知っとるから、そこに向かうことにした。







公園に行くと、ふたつの陰があった。お洋服の色は両方ともきみどりいろときいろ。あれは光(ついでに謙也さん)にゃ!


一目散に駆け寄って声をかけようとしたけど、足がそれ以上動かなかった。



光はぽろぽろと涙をこぼしている。



ただひたすら流れつづける涙を謙也さんの大きな手の平が拭う。その後、ふたりはキスをした。前みたいにぺろぺろするやつやなくて、お口とお口が当たるだけのキスやった。せやけどそれは前見たやつみたいに幸せそうではなくて、俺までにゃんだか悲しくなってくる。





猫の魂は、何グラム?
この前と同じことを、この前とは違う気持ちで考えてみる。俺には光がいて、謙也さんがいて、光の家族がいて、ひかにゃんがおる。せやけどそれだけなんや。光の周りにはたくさんの人がいて、お勉強もテニスも一生懸命頑張って、頑張って頑張って頑張って。光は意地っ張りさんやから周りのみんなには内緒にしたがるけど、ホンマに頑張っとる。朝早く夜遅く、なんでもしっかりやっとる。


せやからな、俺の魂なんか、光のそれとは比べものにならないくらい軽いのかもしれないなぁ、なんて思うんや。猫の魂は、21グラムも無いのかもしれにゃい。10グラム?5グラム?それとも0グラム?そんな軽さで、光のこと元気に出来るんかな?




せやけど、どんなに軽くっても、光を思う気持ちだけはものすごくいっぱいあるのに。






「けんにゃさん、行くで」
「へ、どこに?」
「光くん家の前や。行こ」
「え、せやけどひかにゃん、もう暗いから帰らんと怒られるで…?」
「そんなんええねん、はよ行こう」
「ひかにゃん、」
「…けんにゃさんには、お仕事があるやろ。」
「え、」





「光くんに、おかえりって言ってあげるの!けんにゃさん以外誰がすんねん!」










それからはお家に向かって一生懸命走った。俺が不安になってどうすんねん!軽いとか重いとか、そんなむずかしいお話知らん。俺は光にホンマに感謝してて、俺なりに光をずっと大切にしてきたしこれからもずっと大切にしていきたい。それに光は、俺にいっぱいいっぱい笑ってくれたから。いっぱい、笑ってくれたから。




お家の前で光を待つ。ひかにゃんはここに来る前にお家に帰した。飼い主さんが心配しないように、と言ったら分かってくれた。「けんにゃさん頑張ってな」て言ってくれた笑顔は、やっぱり光に似ていた。














「あれ、けんにゃさん?」


光や!やっと帰ってきた!


「なんで家の前におるん?」


光、おかえり!おかえり!!


「……あぁ、もしかして、待っとってくれたん?」




光は俺をぎゅっと抱き上げて、耳にきっすをしてくれた。


「ありがとうけんにゃさん。大好きやで」











そのあと自転車で迎えにきた謙也さんの後ろに乗って光は行ってしまった。今日はおとまりらしい。謙也さんが迎えに来てくれたときの光の顔を見て、あぁ、もう大丈夫やなぁって思った。




ねぇ光。光が寂しいときも悲しいときも、俺が励ましてあげるよ。

ねぇ光。嬉しいときは俺に話してにゃ。お返事は出来ないけど、一緒に喜ぶから。

ねぇ光。眠れなくなったら呼んで。おふとんの中あっためてあげる。

ねぇ光。泣きたくなっても大丈夫。涙は俺が舐めてあげるにゃ。





ねぇ光。俺は、人間みたいには長くは生きられないけど、必ず光よりも早く先にいっちゃうけど、魂もいつかはお空にいっちゃうかもしれないけど。この命が終わるまで、光とずっと一緒にいるから。一生懸命光のこと大好きだから。大事に大事にするから。



明日も玄関先で待っていよう。夕方帰ってきた光に、一番におかえりにゃさいを言うのだ。大好きな光に、おかえりにゃさいを言うのだ!











***

少ししんみりになっちゃった。
思った以上にみなさんにけんにゃさんを愛してもらえてとても嬉しいです!
あ、タイトルは漢字にしたら重い想い猫です。
ヒサナさん、リクエストありがとうございました!





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