これで終わりね




女遊びの激しいダメ男謙也×財前
ハルアキさんリク
(ちょっと病んでる感じですすみません)

















青い空が嫌いだった。真っ青な空が怖かった。あまりにも澄んでいるから、自分がそこに吸い込まれてしまうのではないかと思った。だから俺は、雲のある空が好きだった。それだけでなんとなく、青空の雰囲気が柔らかくなる気がしたから。そのことを伝えると謙也さんは「おー、俺も一回雲の上乗ってみたいわ!」なんて的外れすぎる返事をくれたっけ。


あんたは俺の太陽や!なんて、さっぶいこと言うつもりはない。せやけど、謙也さんは俺にとって雲みたいな存在やと思う。たくさんの安心をくれる、雲みたいな人。








「光、しよ」
「はぁ、一回だけですよ」
「わかったわかった。んー、やっぱ光が一番かわええな。あ、ホンマやで!」
「そりゃどーも」











謙也さんと俺は付き合い始めてからずっと仲良くやってきた。不満や不安はなかった。せやけど、それは俺だけやったんや。



ある日、一本の電話が入った。謙也さんの親御さんからやった。


「なぁ光くん。光くんとうちの謙也、ずっと付き合ってんねやろ。おばちゃん知っとんで。せやけどなぁ、謙也はうちの大事な跡取り息子やねん。それがホモやなんて困るねん。あの子に何回言っても聞かへんから、光くん。お願い。あの子と別れてくれへんか」




俺は知らなかった。俺と謙也さんが付き合うことで、謙也さんの家族も、謙也さんも辛い思いをしていたなんて。


せやけど、謙也さんのことが好きで好きで仕方なかった俺は、別れようなんて言えなかった。考えに考えた末、俺は謙也さんにこう告げた。




「謙也さん。他の女とも遊んだらどうですか。将来的に男としか経験ないってやばいやろ。俺らいつまで一緒におるかわからんし。せやからええですよ。ちゃんとゴム付けて病気貰ってこぉへんようにしてくれれば、他の女とセックスしても。俺にももう、そういう相手いますから」



俺にそんな相手なんているはずないのに、謙也さんはこの言葉にホンマに傷ついた顔をしていた。謙也さんが他の女を知って、俺と別れるかもしれない可能性を作ること。これが自分からさよならを言えない俺が、謙也さんの未来のために出来る唯一のことやった。卑怯だとしても、これが俺には限界やった。



純粋すぎる謙也さんは、俺の言葉をひとつ残らず真に受けて、ホンマにいろんな女を抱くようになった。単に尻軽な女、謙也さんを好きな女…容姿も性格もいい謙也さんにはいろんな女が言い寄ってきた。俺のところに来る回数も少しずつ減っていった。



セックスのあと、謙也さんはそのまま泊まることもあるけど、終わり次第帰ってしまうこともある。今日は機嫌がいいのか、そのまま泊まっていくようだ。いつの間にか眠ってしまっていた俺は、謙也さんの間抜けな寝顔を見るととてもほっとした。しかしそのあとどうしようもない吐き気が襲ってきて、台所の流し台へ急いだ。









「うっ、げほげほっ…」



セックスのあと気持ち悪くなってしまうようになったのは少し前のこと。謙也さんは初めから今まで、俺のことをホンマに優しく抱いてくれた。そんな謙也さんが他の女をこんな風に抱くなんて考えると気分が悪くなって、戻してしまうのが癖になってしまった。謙也さんは悪くない。全部全部、謙也さんを好きになってしまった俺のせい。


最近はあまり眠れないし、食事もうまく採れない。初めに肉が食えなくなって、野菜が食えなくなって、善哉も受け付けなくなった。もう吐くもんも無いわ。このままなんにも食えなくなって死んでしまうんやろか。


次の瞬間、目眩がして膝から崩れ落ちた。力、入らへん。そうや、飯も食えなくて謙也さんを嫌いにも離してあげることも出来ないんなら、俺、もう死んでもいいのかもしれない。



うまく動かない体を使って這って行って、風邪薬の瓶を掴んだ。震える手で瓶の蓋を開けて、手の平にありったけの量の錠剤を出した。それを飲み込んで死んでしまおう。口まで運ぼうとした瞬間、手を捕まれて薬が床に散らばった。


「光、何しとん…!」
「謙也さん、」
「なぁ、ひか、」
「死のうかと思って」



謙也さんの顔はみるみるうちに真っ青になって、手は震えていた。



「ひか、なん、なんでなん?」
「別に、もう死んでもええかなって」
「おれ、ひかるがいなくなったらどうすればええの、」
「俺の代わりならいっぱいおりますやろ」
「ひかるがいなくなったら、どうすればええの…!」


少し謙也さんの様子がおかしいと思って顔をあげると、謙也さんは胸らへんを押さえてぜぇぜぇ言うとった。うまく呼吸出来てへん。過呼吸や。


「ちょ、謙也さん、しっかり!」
「はぁっ、ひ、ひか、はぁっ、はぁっ…」


思いっきり力振り絞って立ち上がって、紙袋掴んで謙也さんとこ戻る。謙也さんの口をそれで覆って、背中を摩って落ち着かせる。


「謙也さん、吸って、吐いて。ゆっくりでええから。」
「はぁっ、ひ、はぁっ、ひか、ひかる、」
「うん、大丈夫やから。ちゃんとおるから」
「は、はぁ、ひかる…!」


なんでこの人こんなダメダメなん。って突発的とはいえ死のうとした俺も俺やけど。こんなんじゃ、いつまでたっても離れられんわ。





















落ち着いてきた謙也さんは、ぼろぼろ涙を流した。


「謙也さん、まだ体調悪いですか」
「光、死んだら嫌や。絶対あかん。俺、さっきホンマに怖かった。怖くて怖くて、息も出来んくなった。」
「…………」


「俺の存在が光の将来邪魔しとるんもわかっとる。男同士やのに…重たいのもわかっとる。せやけど俺、あかんねん。光以外やと全然気持ち良くない。最初は光が俺と離れるんを望むんならって思って、いろいろ遊んだよ。せやけど最近なんか、女のどんな姿見たって勃たんくて」
「謙也さん…」
「なぁ光。俺もうお前以外無理や。他の女なんか抱きたない。抱けへん。お前だけが好きなんや。」
「………ほな、俺のことだけ抱いてください。もう、死のうやなんて考えませんから。」




謙也さんの首に思いっきり腕を回して無茶苦茶に口づけてやる。「…光ももう、他の女とセックスしないでほしい」と、拗ねた顔した謙也さんは言った。俺ははじめっから他の女なんておらんかったけど、今言うと謙也さんはきっと自分を責めるやろうからそれはとりあえず内緒にして「わかりました」と言った。



謙也さんのご両親には申し訳ないけど、もう無理や。ごめんなさい、俺はもう謙也さんを愛することをやめられへん。多分謙也さんもそうやと思う。いつか分かってもらえるように、これからは独りよがりやなくて、ふたりでがんばろう。


俺の真っ青な心に、優しい雲が戻ってきた。














***

なんか病み病みなお話になってしまいすみません。他の方のリクでもありましたが、過呼吸ネタは入れたかった。
ハッピーエンドかバッドエンドおまかせと言うことでしたので幸せにしちゃいました。
ちなみに「これで終わりね」は、辛い日々はおしまいねってことです。
ハルアキさん、リクエストありがとうございました!





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