ドウカ、散ルマデ見テテ
7万打フリリク企画
遊女パロの謙光
clearさまリク
「ぅ…あ、腹…痛い…」
「光、大丈夫?医者にかかろうか?」
「こは、る、さん…」
「すぐ呼んでくるさかい、待っとってな」
「待ってください…!」
昨日の夜は数多くのお客を相手にしてすっかりまいっとった。いっぱい体液を中に出されて、具合悪うなった。でも、医者なんかいらん。
「謙也さん、呼んで…」
「光…。せやからあの子はまだ医師免許があらへんのやから…」
「謙也さんやなきゃ、だめなんです…こはるさん、お願い……」
「分かった分かった。そこで待っとってね」
遊郭で生きることは、いろいろなことを背負うこと。自分を犠牲にすること。それを人には見せないこと。
せやけどそれじゃあ心が折れてまう。そんな時、俺を救ってくれた人がいた。
「光…?大丈夫か?」
「謙也さん…!」
謙也さんの父上はうちらが世話になっとるお医者様で、謙也さんは医学を勉強しだしたばかり。俺が遊女の仕事が辛くてしゃあなくて、影で泣いとったときに謙也さんと出会った。俺はすっかり謙也さんに心を癒されて、ほだされて。
謙也さんは医者としては不十分やけど、その優しさはどんな薬よりもよぅ効いた。気付いたら俺は謙也さんに心惹かれて、辛くてたまらんくなった頃、謙也さんに甘えるようになってしまっとったんや。
「光、また謙也さん呼んどんで」「若い男まで食う気かいな」「ちょっと売れとるからって勝手なことしよるわ」「玉の輿でも狙っとんのかねぇ、遊女やのに」
そんな言葉なんかどうでもよかった。噂なら勝手にすればええ。そんなんより、謙也さんが傍におってくれる方が大事なこと。
「腹痛いんやろ?大丈夫か?おとん呼んできた方がええんやないか?」
「大丈夫ですから…それより謙也さん、抱っこしてください。腹さすって」
「ん。ほら、」
謙也さんのあったかい体につつまれて大きな手が腹を優しく撫でる。とくん、とくん。謙也さんの緩やかな心臓の音が耳に響く。この瞬間だけは、生まれてよかったって思える。
「光、楽なってきた?」
「うん……けんやさん、」
「なん?」
「けんやさんは、いつまで俺のわがまま、聞いてくれるんかなぁ…」
「ひかる…」
「ねぇ、謙也さん?好きになって、ごめんなさい」
謙也さんはきっと立派なお医者さんになる。綺麗な嫁さんもろて、明るい人生を歩む。遊女やっとる男に好きやなんて言われてさぞ迷惑やろなぁ。優しい謙也さんはきっと俺を哀れに思っとるんやろなぁ。
「…光、無理して笑わへんくてもええんやで」
「無理なんて、しとらんもん…」
「まだお腹痛い?」
「もう大分楽やけど…」
「ほんなら光も俺の首んとこ腕回してや」
俺は抱っこの体制から代わってぎゅーって正面から抱きしめられた。俺も謙也さんに必死になって縋り付く。これがただの同情やとしても、離しとぉない。俺が女やったらよかったのに。遊女やなかったらよかったのに。性行為を商売にする俺には愛情を手に入れることすらままならないの?
涙が出そうになって目をぐっとつむる。耳に響くのは愛しい人の声。
「なぁ光。俺のこと待ってて。一人前の医者になったらお前のこと買いにくるから。それまでは何辺でも顔見に来たるよ。せやから、好きになってごめんやなんて言うのは卑怯やよ、」
「けんや、さん…」
「光。俺、お前のことが、す「駄目です」
「……光、」
「こんなとこでこんな話、あかんです」
「…せやな、」
「…謙也さん、今夜暇やったら俺のこと買いに来てください。ただし、銭なんかや俺は買えへんですよ」
「え、」
「金やなくて、愛で俺を買って。金なんかいらんから、俺を抱いて」
さっきの続きはその時聞かせて、て言うたら謙也さんは泣きそうな顔をした。
謙也さんのことを本間に想っとるならこの手を離さなあかんことくらい分かっとる。もう彼をお客やと思えへん俺には、彼を突き放すことしか道は残されてへんってことも分かっている。
やけどもう少しだけ、縋っていたい。彼を思って泣いていたい。謙也さんが本間にうちのこと好きでおってくれとるならば、一人前のお医者様になるまでは、あなたの優しさに甘えさせて。そのあとはちゃんと、これから現れるやろう謙也さんのお姫様に全部全部、あげるから。
謙也さんと別れたあと痛み出したそれはきっと俺の心やと分かっていたけど、腹痛のせいにして。一滴だけ、泣いた。
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リクエストありがとうございました!
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