夏風邪




くわさん宅「月と太陽」5万打フリリク企画で頂いた物です!












「うぅ〜……」

鼻をぐすぐす鳴らして、零れる涙を拭いながら「堪忍っすわ」と、俺の部屋に来てから泣き続けとるのは、溺愛しとるかわええかわええ恋人の光。
いつもなら、泣いてる光を抱き締めて涙を拭ってやるのに、今日はそれも出来ひん。
何故なら俺は、昨日まで夏風邪を引いとって病み上がりやからや。起き上がろうとすれば、「寝てなあきません」言うて、光がベッドに押し戻す。
2日間高かった熱は、薬が効いて昨日早い内から下がって今はもう平熱や。でも無理に動けばまた熱が出る言われて、今日もベッドから降りれんかった。夏風邪は長く罹るって言われとるから、大人しく言うことに従った。
熱がある時は意識も朦朧としとったが、下がった今、じっとしとることが苦手な俺は、早く治すには十分な休息が必要やと分かっとるものの、ただ寝とることに飽き飽きしていた。
暇潰しにもなる携帯は、病気なんやから弄るな言われておかんに取り上げられ、机の上に鎮座しとる。バレたらあとが面倒やから、大人しく言うことを聞いた。そのせいで、メールの確認も出来ひん。
まあ、確認するより先に、おそらく送り主の1人である当人が
、家に来たんやけどな。
読まんでも分かる。俺の体調を気遣う言葉と謝罪が並んどるんやろな。
別に、俺が風邪を引いたんは、光のせいなんかやない。せやけど光は、自分のせいやて思うとる。俺がいくら違う言うても、一向に首を縦に振らん。
漸く落ち着いて、会えるようになったと知った途端、白石を振り切って俺んちに行こうとするのを何とか留め。部活が終わったら、いつもは最後まで居残って自主練をするのに急いで着替え、挨拶もそこそこに部室を出た、らしい。これはあとで、白石から聞いた話なんやけどな。
授業はしょっちゅうサボるくせに、部活は人一倍真面目にやる光が、自主練もせんと俺んちに来てくれた。光にとって俺は、テニスよりも大事なんやな、と知ってはいたけど再確認すると、嬉しさで顔がにやける。
数日振りに光に会えて、笑顔になった俺に反して、光は部屋に入った途端、涙を流しながら謝り出した。
光を泣かせたくなんかないのに。
風邪を引いてもうた自分の体を、俺は恨んだ。



5日前。
帰り道、急に降られた雨のせいでずぶ濡れになった光を、俺んちに連れ込んだ。……連れ込むっちゅーのは言い方が悪いわ。まあとにかく、連れて帰ったんや。
俺と光んちは、学区こそ違えどそう離れておらず、ずぶ濡れになった光は当然、自分の家に帰ろうとした。
別れ道。「ほなお疲れ様でした」と言うて自分んちに向かおうとした光の腕を、咄嗟に取ったのは、今日、光んちには誰もおらんて知っとるから。

「謙也さん?」

腕を取られ、不思議そうな表情を浮かべる。濡れたせいでセットされた髪はぺたりと落ち、少し長めの前髪から覗くように見てくる光は、情事の時を思い出させる。
思わずムラっとした気持ちを抑え、

「俺んちに来ぃ。家に誰もおらへんのやろ?」

有無を言わさず腕を引いた。

「いや。ずぶ濡れやし、着替えもあらへんし、迷惑掛けてまうから悪いっすわ」

普段は先輩とも思わぬ態度で我が儘を言ったりするのに、肝心なとこでは引いてしまう。

「迷惑なわけないやん。光、面倒や言うて適当に体拭いて、蒸し暑いからってガンガンクーラー掛けた部屋で、布団にも入らんで寝そうなんやもん。そんなん、風邪引いてまうで」

ただでさえ、光は風邪を引きやすいのだ。季節の変わり目には、必ず熱を出して寝込んでまう。
梅雨で湿度が高い今の時期、暑いのが苦手な光は既にクーラー
を点けとって、毎日快適に過ごしとるらしい。さすがに夏本番のように設定温度を低くしとるわけやないが、それでもきっと25とか6辺りに設定してそうや。(除湿で十分涼しくなると思うんやけど、「快適に過ごすためにクーラーはあるんっすわ」とか言って、冷房にしとるらしい)
冬の雨と違って、濡れても震えるような冷たさはないが、やはり体には良くない。スポーツをする者としては、体を冷やしたらあかんのや。
遠慮する光を無理矢理引き摺るように家に連れて行き、玄関から「おかーん! タオル持って来て!」と怒鳴れば、「まずはただいまやろ!」とおかんの声が応えた。
ぶつぶつ言いながらタオル片手に玄関先まで来たおかんは、光の姿を認めると、

「ずぶ濡れやないの! 早よ、風呂に入りや!」

タオルを光の頭に被せ、わしわしと髪の毛を拭いた。

「ほら、謙也も体拭いて。光ちゃん、着替えは、取り敢えず謙也の服でええよな? 制服は洗濯しといたるから、脱いだら洗濯機に放り込んでな?」

あらかた水気を拭き取ると、風呂場に光を押し込む。光が風邪を引きやすいこと、おかんも知っとった。


「ついでやから、謙也も一緒に入ったり。あんたはあまり風邪引かんけど、体冷やすのは良くないで。着替えなら、うちが出しとくから」

光の着替えを用意しようと部屋に戻ろうとしたら、おかんに引き止められた。
こん時、素直に聞いとったら今光を泣かせんで済んだものの、そん時の俺は一緒に風呂に入ったら何してまうか分からんかったから、

「光の後でええわ。取り敢えず、着替え出してくる」

2人分の荷物を持って2階に上がった。
自室に入ってすぐ、クーラーを点ける。初めに冷房ではなく、部屋に籠もった湿気を除湿する。その間に、光が着る服を出したり、自分も着替えたり。
ラケットバッグの中の洗濯物を取り出し(光の分も出してやった)、使用したバスタオルと一緒に持って下に降りた。
風呂場に行けば、湯船に浸かって疲れを癒しとるのか、シャワーの音は聞こえず、チャプリと微かな水音だけが聞こえた。
それだけで、思わずムラっときてしまった俺は、思春期真っ只中やなぁ、と苦笑した。
再び部屋に戻り、除湿から冷房に切り換える。設定温度は高めだが、少しサラリとした空気の中、程良く冷えてきた。拭いたとはいえ、髪がまだ湿っとる俺
は少し寒いと思うたが、しっかり温まってくる光には、寒すぎず暑すぎず、ちょうどええやろ。
それから光が上がるまでの数分、俺は冷えた部屋でまだ濡れたまま、ラケットが濡れとらんか確認しとった。
きっとこれが、風邪を引く原因になったんやと、今は思う。



その日はそのまま、光を家に泊めた。だいぶ雨足か強くなっとって、光んちに帰るまでにまた濡れてしまいそうやったから。
俺としては、嬉しい限りや。
予定やなかったのに、光と一晩一緒におれるなんて、幸せや!
明日も朝から部活やから、手ぇ出すわけにはいかんかったけど、一緒の布団でぎゅーっと抱き締めて寝た。
ひんやりしとる筈の光の体が、その夜はほんのり暖かかった気がした。


次の日。4日前。
昨日雨にうたれた影響は、見た限りないようや。そっと額に手をやり確認してみても、いつも通りの体温しか感じへん。
光の寝顔を存分に堪能したあと、気持ちよさそうにスヤスヤ寝とるのを、可哀想やけど揺り起こす。

「光〜、朝やで。起き……けほっ」

声を掛けとったら、咳が出た。少し、喉が痛いか……?
額に手をやるが、特に熱があるようには思えんかったから、ちょっとからんだだけやろと、気
にも止めんかった。念のため、念入りにうがいでもしとこうかと、歯磨きついでにしといた。
その日の部活は順調で……、むしろ、光とずっと一緒やったせいかいつもより調子がいいくらいやった。
光とダブルスを組んで小春とユウジに快勝すると、かわええ笑顔を見せてくれて、ますますテンションが上がった。
夏休み中やから、学校がある時よりも部活時間は長いが(何せ、朝から晩までや)、上がりはいつもより早い。陽が延びている今、17時に解散してもまだまだ昼間のように明るい。
今日も光と一緒に帰る。
他愛ない寄り道も、好きなやつと一緒やと、楽しくて仕方がない。
家に帰るまで保たへんと、コンビニに寄って買い食い。金があまりあらへんから、2人で半分こすることにした。
コンビニに足を踏み入れた途端、よお効いている冷房に、背中をぞくぞくと悪寒が走ったが、寒気を感じたわけやないし無視することにした。
2日続けて光をお持ち帰りしたかったが、さすがにそれは断られ、いつもの別れ道でバイバイする。誰もおらんかったのをいいことに、軽くキスをしたれば、顔を真っ赤にして「どアホ!」言うて走り去って行った。
いつまで経っても初な反応にに
やつく顔を片手で覆って、俺も家路に着いた。
朝のことなど忘れて、手洗いはしたものの、うがいをすんのをうっかり忘れた。



3日前。
朝起きたら体がダルく、何となく節々が痛むような気がした。喉が渇いとるせいか、咳が止まらへん。
今日も午前中から部活があるから、制服に着替えて階下に降りる。
腹は減っとるし、咳も、水を飲めば止まるやろ。ダルいのは、ちょい夜更かししたせいで、寝不足なのかもしれん。
テーブルにつけば、朝飯を持ってきてくれたおかんが、変な顔をする。

「謙也。あんた、熱あるんちゃう?」

前髪を払われ、額に手を添えられる。
自分では、熱があるようには思えんかった。確かに節々は痛むしダルいけど、食欲はあるし、歩く足取りもいつも通りや。
しかし、そこはおかんや。

「計らんと分からんけど、微熱があるみたいやな……。今日は、部活休み。あんた、熱出す時はいつも高熱になるから。今は微熱みたいやけど、時間が経てば上がってくるで」

平気や言うても、聞く耳持たへん。おかんの言うこと聞いとき。おとん、病院に行ったから、今の内に診てもらえ、言われて、渋々と併設されとる病院に足を運んだ。


 
「何や、珍しいな。どれどれ……、風邪の引き始めやな」

謙也が風邪なんて何年振りやろなー、薬出すから大人しゅう寝とき。
そう言われてまえば、部活に行くなんてもう無理で。
家に帰って薬を飲むと、脱いだばかりの寝間着に着替え、ベッドに入る。

「せや、連絡入れとかな」

枕元に置いた携帯を手に取り、光と白石に『風邪を引いて休む』メールを入れた。
光には、『今日一緒に行けんでごめんな』と追加して、送ったところでおかんが入ってきて、「何しとんねん。病人が携帯弄ってたらあかんで」と取り上げて、机の上に置かれてもうた。
氷枕を頭の下に、冷えピタを額に貼ると「大人しくしとき」と言って部屋を出て行った。
直後に携帯が震えたのが分かったが、風邪を引いたと自覚した体は眠りを欲しとって、確認せな思うたのを最後に眠ってしもうた。
そのあと、おかんの言った通り熱が上がって。
光が部活帰りに見舞いに来てくれたみたいなんやけど、熱が上がったて聞いたら、真っ青な顔をなったらしい。余所の子に風邪を移すわけにはいかんから、見舞いの品だけ受け取って帰ってもらったで、と薬を飲ますために起こした俺に、そう告げた。
それを聞いて、すぐにでも光に平気やからとメールを送りたかったが、高熱により若干意識が朦朧としていた俺は、それも出来ず再び眠りについた。
泣いている、光の夢を見た。


たまにしか熱を出さんせいか、出す時はここぞとばかりに高熱になる俺は、次の日も下がらず、漸く下がったと思ったらまだ安静にしとれと言われ、結局、何のフォローも出来んまま、光が見舞いに来てくれた。
あの時の夢は正夢やったんかと、今も泣きじゃくっとる光を見て思う。
そんな光を慰めたくて、床にぺたりと座っとる頭を、少し体を起こして撫でたった。

「……あきまへん。ちゃんと大人しゅうしといて下さい」
「や、熱は、昨日で完璧に下がったし、喉も痛まんし、治ったで?」
「治りかけで、そうやって油断しとると、ぶり返しますよ。謙也さんがまた、苦しい思いをするのかと思うと……」

またじわりと涙が浮かんでくる。

「分かった! 大人しく横になっとるから、泣かんで。な?」

光の涙に弱い俺は、また布団に横になった。
慰めたいのに、せっかく光がこんなに側におるのに、触れられないなんて。こっちの方が、精神的に良くない気がする。
流れる涙を一生懸命拭って、「
……もう、苦しくないっすか?」なんて聞く可愛い恋人を、今すぐ抱き締めたいと思えるんは、元気になった証拠やと思う。……いや、俺ならどんなに具合が悪くても、光を抱き締めたいと思う。
やけど、起き上がろうもんなら、せっかく落ち着いてきた光の涙がまた溢れてまう。
どうしたものかと思案すれば、十分に睡眠を取って、頭がしゃっきりしとるおかげか、すぐにいい案が浮かんだ。
光が来る前に、シーツも寝間着も取り替えた。昼間、おかんが掛け布団を干してくれたから、ふかふかや。

「光」

ひとしきり泣いて、やっと止まった涙を拭う光。泣き顔ブサイクやから見られたない言うて、あんまり顔を見せてくれんかったけど、さすがに呼び掛けには上げてくれた。
全く、どこがブサイクやねん。光は、泣いとる顔かてめっちゃかわええ。笑いかけてやれば、光もぎこちなく笑うてくれた。
布団の端を捲り、空いとるとこをぽんぽんと叩く。
意味が分からず首を傾げる光に、もう一度笑いかけてやって、

「ここ来て。ぎゅーしたるさかい」

来い来いと手招く。
当然、戸惑いを見せる光。「せやけど……」と呟いて、どうしようか躊躇っとる。


「光が早よ来んと、いつまでもこのままやで〜。もしかしたら、風邪がぶり返すかもな」

俺の言葉に暫し逡巡したあと、そっとベッドに乗り上げてきた。俺の隣に体を横たえて、遠慮がちに擦り寄ってくる。
そんな光をぎゅーと抱き締めて、背中をぽんぽんと一定のリズムで叩く。

「光、あまり寝てないやろ? ちゃんと寝なあかんで?」

この様子やと光は、俺のことを心配しすぎて、よお眠れんかったに違いない。泣いて微かに赤く染まっとる頬は、部屋に入って来た時は青白かった。抱き締めとる今は、違う意味で更に赤く染まる。

「なあ光」
「はい」

胸元におる光の耳元に顔を寄せれば、ふんわり髪の毛から香るワックスの匂い。光の匂いは俺にとって、最高のアロマや。

「心配掛けて、堪忍な。光が風邪引かなきゃええ思うてたけど、こんなに泣かせるんやったらちゃんとしとくんやったって、後悔しとる」

さすがに痩せた、まではいかへんけど、どこか疲れたように見えるのは、寝不足のせいやろ。普段から夜更かしする光やが、目元が赤なってたとこ見て、夜1人になると自分を責めて泣いとったんやなって推測した。

「光を泣かせたないんや。いつ
も笑っていて欲しい」

よしよしと頭を撫でれば、ぎゅーとし返してくれる。こんなに愛おしく思うんは、光やから。

「……せやったら、いっつも元気でおって下さい。俺は、謙也さんが笑うてくれてれば、いつでも笑えるんやから」

体を起こして伸び上がると、熱の下がった俺の額に唇を落とす。
恥ずかしなったんか、すぐにまた胸元に顔を埋めてくる。
ああ、ほんまに光は可愛すぎる。こんなにも愛しく思える存在が、こんなにも近くにおるなんて、俺はなんて幸せなんやろ。
会えんかったのはたったの3日やけど、飢えを覚えるには十分で。互いを補充するように、ただ抱き締め合っていた。


俺の体温が心地良かったんか、はたまた安心したんか。
胸元から寝息が聞こえてきたのはそれからすぐで、目線を下げてみれば光は眠っとって。
安らかな寝顔を見て、自然と笑みが浮かぶ。
光がしたように額にキスを1つ落とすと、俺も目を瞑る。
腕の中に愛しい者を抱き締めて、穏やかな眠りについた。














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ぎゃぁぁぁ!!なんてこった…光たんかわいすぎる…。「お題deフリリク」ということで私は「夏風邪」をリクエストさせてもらいました!くわさんとこの光たんは毎度毎度かわいすぎる…!私も布団に入れてくださいって頼んだらくわさんの謙也さんに丁寧に断られたんだよね(笑)そりゃ無理や!!
くわさん、かわいすぎる謙光ちゃんをありがとうございました!!





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