例えば愛とか恋とか




企画提出作品
ユウ光Webアンソロジー「LOVESICK」に提出したものです。














俺は金太郎みたいに天真爛漫で誰からも愛される性格してへんし、白石部長みたいに統率力も持ち合わせてへん。せやけど俺は部長なんやから、みんなをまとめなあかん。頑張って頑張って練習メニュー作って、コミュニケーションとか苦手やけどそれも頑張って、「白石のあととか可哀相やなぁ」なんて言われるのは腹が立つから、そんなこと言われへんように一生懸命部長という仕事にのめり込んでいった。


そしたらまぁ、ちょっとしんどかったみたいで。ぱーん、て爆発した。





全部全部嫌になって学校を飛び出す。行く宛もなくただただ必死に足を動かして、ストリートテニスコートの裏にある公園のベンチに座りこんだ。息は上がっていて熱いはずやのに、心はどんどん冷めていく。




もやもやとした心は、晴れることはなく。これから俺は部活をどうやってまとめて行けばええのかとか、プレイヤーとしてどうあるべきなのかを一生懸命考えて…ふと、ユウジ先輩のことを思い出した。恋人であるはずの彼に、最近満足に会えていないのだ。苛々しとるのはそのせいもあるんかもしれへん。








俺たちの付き合いは、一方的な俺の片思いから始まった。小春先輩とあんなネタをやっとるくせにユウジ先輩は元はといえばノンケやった。やからユウジ先輩にちっこくてふわふわロングヘアのかわええ彼女が出来たときは心の中で何度もそんな女死んでまえばええのになんて最低なことを考えたりもした。


結局ユウジ先輩はフラれてもうた。理由は、その女がユウジ先輩と小春先輩のネタに耐えきれへんくなったから、らしい。…俺がユウジ先輩の恋人やったら、そんなん気にせぇへんのに。酷いわ神様、ただ俺は男に生まれてしまっただけやのに。


ガチでへこんどるユウジ先輩を見て、たまらなくなって気がついたらキスしとった。走って逃げようとした俺は簡単に捕まってしまって。



(財前、今の何?)
(っ、ごめ、なさ…)
(言うて。ちゃんと言うてくれたら、俺もちゃんと向き合うてやるから)
(っ、……すき、です…)
(うん)
(ゆ、じ、先輩が…すきです…!)
(財前、おおきにな)



ユウジ先輩は俺を避けることはしなかった。俺はもう気持ちを知られとるから積極的にユウジ先輩に近付いて、まっすぐに思いをぶつけ続けた。優しいユウジ先輩が、俺と向き合ってくれたおかげや。













(あー!お前ホンッマ生意気やわ!)
(何言うとるんすかかわええ後輩に向かって)
(なんやねんそれ!)
(俺その辺の女なんかよりかわええ自信ありますけど?)
(…なぁ財前)
(はい?…)
(お前その辺の女より、ちゅーか…俺的には世界で一番かわええんやけど)
(え…)
(意味、分かるよな?)




いつしかなんでかわからへんけど、ユウジ先輩は俺のことを好きになってくれて、俺たちは恋人同士になった。嬉しくて嬉しくてしゃーなかった。ユウジ先輩は優しくて、かっこよくて、世界一素敵な人。

























「光!!はぁ、やっとおった!!」
「え…先、輩…。なんで、ここ…」
「お前が学校から飛び出してくの見えたから。ホンマ探したわ」



要するに俺がなにを言いたいかっていうと、ユウジ先輩は俺には勿体ないっちゅーこと。俺にはこの人の明るい未来を奪う権利はないっちゅーこと。ユウジ先輩は優しく俺の頭を撫でてくれて、俺の視界に写るユウジ先輩はどんどんぼやけていった。




「…ユウジ先輩、は、」
「ん?」
「俺じゃなくても、いいんじゃないんですか?」
「光…」
「俺じゃなくても、もっと、もっとほかに…」
「…せやなぁ、そうかもしれへん」



ユウジ先輩に優しく抱きしめられて、良い意味で体から力が抜けてくのが分かった。



「せやけどなぁ、俺は光がええねん。ツンツンしとるくせに甘えたで、すぐなんでも一人で抱え込んで、先輩は俺なんかでええんか〜なんで馬鹿みたいなこといつまでも気にしとる光がええねん。光が俺を好きでおってくれる間は、俺は光を大好きでいる。お前は俺を大事にしてくれるから、俺もお前を大事にする。
俺は俺の好きにやらせてもらうで。いくらお前かて止める権利ないから」




どんどん涙は溢れてくる。俺はやっぱり、この人がおるから生きていられるのかもしれへん。


「ユウジ、先輩…」
「なに、光」
「好きです…すごく、すごく好き」
「ありがと」



その日はユウジ先輩と手を繋いで一緒に俺ん家に帰った。ユウジ先輩のやらかくて、でも指の付け根には固いまめがある手を握りしめたとき、やっと心が軽くなった気がした。


ユウジ先輩は頭を撫でながら俺の部活に対する気持ちを全部聞いてくれて、俺は頭の中がすっきりしてこれからは前向きに頑張れそうやと思った。



「…なぁ光」
「はい」
「俺は、お前にさっき全部言うたで。お前は言わへんの?」
「え…」
「俺のことどんな風に思っとるか、何をそんなに不安がっとるのか、言わへんの?」



うっとおしいと思われないだろうか。彼がそんなことを思う人やないと分かってるけど、なんとなく躊躇。
せやけど今日はちゃんと言う。




「ユウジ先輩には、幸せになってもらいたいと思う。」
「………」
「幸せになってもらいたいから、早く俺から解放してあげないと、って、思う」
「光……」


「やけどホンマのホンマは、俺が幸せにしてあげたいって、思う」



ユウジ先輩は満面の笑みで「ほんなら光の好きにして。光が一番したいようにして」って言った。





これからの未来は分からないけど、俺はこれからはもっとまっすぐ前を向いて生きていきたいと思った。時々後ろを向いてしまうかもしれないけど、大丈夫。俺の後ろには背中をいつも見つめててくれる彼がいる。



これからひとりぼっちでは泣かないことを約束して、俺たちは手を繋いで眠りについた。


いつまでも、俺の手を握ってくれるのはあなたでありますように。それが一番の、願いなのかもしれない。





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