まるで世界にふたりきり





「カナリヤ」えこ。さまから頂きました。
7667キリリクを踏んだときに書いていただいたものです!
ユウ光で風邪ネタ!











風邪を、引いたらしい。
らしいというのも朝からの記憶がないから。

ピピッと鳴った体温計を見れば38度の文字。思わず溜息が出る。平熱が35度の俺には36度は微熱、37度は完全に熱。それプラス1度ってそらしんどいわけやわ。


おとんは仕事、兄貴も仕事。おかんはパートに行ってて、義姉さんは……ああ、研修旅行とか言ってたっけ。洸はいつも通り保育園。ま、あいつがいたってどうにもならんけど。

ちなみに只今12時53分。ぐっすり寝ていたようで、時間の感覚が掴めないし記憶も定かじゃない。だけど心配するおかんを大丈夫やって送り出した記憶だけはある。なんでや。

(あー……今何の授業やろ)

頭が働かない。ぼおっとする中で考え事は辛い。

「っあ゛ー…」

声が出ない。何もかも億劫やけど、欲には勝てなくてベット横の机に利き手を伸ばす。

サボりちゃうねんけど、罪悪感があるのはなんでやろ。授業サボんのは何回もあったけど、休んだことはなかったもんな。

(……ハァ、)

世界で一番身近な場所にいるのに何だか居心地が悪いのは、きっとこの静寂のせい。
……前に風邪を引いたのは、確かまだ小学生の頃。まだ洸が生まれてないあたり。その時はおかんがついていてくれたから、こんなこと思いもしなかったけど。

閉鎖的な空間に、たったひとりでいる。そう自覚すると何だか、まるで地球の最後の人類になった気がして。


なんだか。


(…………)

中二にもなって淋しいとか、どうなん俺。

もぞもぞとタオルケットを被り、ベッドに身を沈める。襲ってくる睡魔のなか考えたのは、やっぱり愛しいあの人のことだった。















「ひかる」


「……ひかる」


「ひーかーるー」


声が聞こえる。
夢心地の意識を現実に引き戻したのは、頬に触れた冷たい手。

「……ゆ、じさん…?」
「おー、生きとるかー」
「いちおー…」
「にしてもあっついなぁ、お前」

そら熱出してるんやから当然やろ。
そう言ったつもりやったけど、「そ」の音があんまりがさがさしててユウジさんに止められた。心なしか慌てた顔。

「……お前、何か飲んだ?」
「み、ずなら……午前中に…」
「何時間前の話やねん…」

ほら点滴、と差し出された見覚えのある青いペット。前に誰かが飲む点滴ー言うたん覚えてたんやな。律儀な人や。

「飲める?」
「ん゛ー……」

冷たい。気持ちいい。
ほてった頬にラベルを押し付けそのまま動かないでいたら、ユウジさんにそれを奪われた。

「……あ」
「お前、飲む気ないんなら返せ」
「えー」
「ったく、しゃーないな…」

ひとつ溜息をつき、中身をひとくち口に含んだ。そしておもむろに。

「……んっ」

口移しで喉に流れ込む冷たい液体。全部飲み込む前に舌が入り込んできて、かなり慌てた。

「……ぷはっ、」
「先輩、風邪移りますよ…」
「移せばええやん。んではよ治せ」
「あほか……」

起き上がろうとしたが、くらりと頭がふらついた。けど大丈夫。ユウジさんがちゃんと支えてくれる。

「おま、無理すんなや…」
「やってせっかく、ゆーじさんが…」
「……あー、もう」

わしゃわしゃと頭を掻きむしる先輩。行動の意味がわからなくてきょとんとしていたら、心なしか赤い顔で口を開く。

「……あんま可愛いこと言わんといて。こっちも色々限界なんよ」
「限界…?」
「やってお前なんや顔赤いし、素直やし、何かもう……」

目が泳いどる。やっぱりわからなくてまばたきを繰り返していたら、ユウジさんはもっかい大きな溜息をついた。

「……その調子やと何も食ってへんな。リクエストあるか?」
「たまご…」
「ん?」
「たまごがゆ、くいたい……」
「ん、了解」
「わーい…」

ユウジさんの手料理は美味しい。少し後の幸福を想像したら、子供じみた歓声をあげてた。…あかん、絶対子供扱いされる。

「っ、お前って奴は…!」
「……?」
「ハァ、…………台所借りるな」
「…ひぁい」

あ、また変な声出た。でもユウジさんは返事も聞かないまま、早足で階段を降りて行った。

「……ん、」

少し頭を動かせば、手の届く枕元にポカリが置いてあって。愛されてるなぁ、なんて今更思ってもみたり。

(……何か夫婦みたいやなぁ)

いつもならうわ寒っ!とか思ったりしとるとこ。けど今日は熱のせいなのか、なんだかくすぐったくて。
正直熱あってめっちゃしんどいのに、幸せってこういうことなんやろなって思った。


俺とユウジさんとが、たとえ世界最後のふたりになっても。きっとちゃんと生きていける気がする。
…現実的に考えればそんなことないかもしれん。けど、ひとりきりの淋しさを味わうことはないやろう。


(……、我ながらクサイわ)


自分の中で独りよがりでも結論が出たら、なんだか眠くなってきた。
先輩、ちゃんと起こしてな。台所のユウジさんにテレパシーを飛ばして、俺はそっと目を閉じた。









「……光、飯出来たで」
「んー…」
「食える?」
「…ふーふーしてくれたら…」
「はいはい。ほら、口開けぇ」
「あー………」
「どう?」
「……先輩、嫁に来て」
「あほ、お前が来いや」
「……!」


(なんでそこで赤くなるかな…あ゛ーっ、もう! はよ風邪治せや、触りたくても触れへんわ……)










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やばすぎる…!可愛すぎでしょー!!ユウくんも光もまとめてぎゅーってしたい!えこ。さまのユウ光大好きです本当…!
えこ。さま、本当にありがとうございました!





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