おかえり



「月と太陽」くわさんからの頂き物!
私が留学から帰ってきたときに頂いたものです。
「いってらっしゃい」の続きです。









《おかえり》


俺が高校進学を機に東京に出て来て、4年が経った。
昨年の春、無事に希望する大学に進学出来、忙しいけれど充実した毎日を送っている。
一つ不満があるとすれば、それは光が側にいないことで。
光は大阪の高校に進学したから、離れ離れのまま4年が過ぎた。
離れていることに不安はなかった。
たかだか4年。俺達が出会うのに、13年掛かったことを思えば、あっという間だ。
それに、俺は光を愛しているし、光も俺を愛している。例え離れていても、2人の気持ちに支障をきたすことはなかった。
年明けて1月。
正月は大阪に帰ったが、大学受験を控えた光とは、ほんの少ししか会えなかった。それは仕方のないことだ。短い時間をフォローするかのように、濃密な時間を過ごしたのは、言うまでもない。
光は、どこを受験するか、教えてくれなかった。ただ、高校進学した辺りで、自分が将来何になりたいのか決まってきたそうで、それに向けていろいろ頑張って勉強していたみたいだ。

「そろそろ、センター試験やな」

カレンダーを見れば、大学のセンター試験まで数える程になってきていた。
光が落ちるという心配は一切していなくて、ただ存分に実力を発揮して欲しいと願うだけだ。

「激励のメールでも送ったろうかな」

携帯を手に取れば、新規作成画面を開く前に、メールを受信する。
相手は、今まさに思っていた光で。
最後の追い込みでメールも控えていたから、嬉しい気持ちを押さえきれずに早速開く。

「……え?」

そこに記されていたのは、予想外の言葉。
俺は立ったり座ったり、パニックになった頭で何をすればいいか考える。
しかしもう一度メールに目を通すと、財布と自転車の鍵を引っ付かんで、マンションを飛び出した。

『謙也さん、こんにちは。今、東京に来ています。試験の日まで、泊めて下さい。あ、茶菓子は饅頭がええっすわ。こし餡の茶饅頭でお願いします』



光が指定してきた饅頭を買ってきた俺は、散らばっている雑誌を片し、薬缶に火を掛けた。

「言うてくれれば迎えに行ったのに」

何度メールしても、返事はなく。俺はただ待っているしか出来なかった。
試験を受けるということは、東京の大学に進学するのだろうか。
少し、期待する。
光が東京に来てくれたら嬉しい。
そうしたら、一緒にここに住んでくれないだろうか。
ワンルームマンションといえども、広さは充分ある。
それに、一人で寝るには大きすぎるベッドは、光がいつ来てもいいように選んだ。
光を抱き締めて毎晩眠れたら、どんなに幸せだろう。
やがて、チャイムが鳴って。
愛しいあの子が来たことを知らせる。
光はいつも、俺が大阪に帰った時、「おかえり」と言ってくれる。
「いらっしゃい」ではなく、「おかえり」と言ったら、どんな顔をするだろう。
最後に光の帰る場所は、俺と同じこの場所だと信じている。
「いってらっしゃい」と「おかえり」を繰り返して。
そんな変わらない毎日を、これからずっと、光と過ごしたい。
そんな思いを込めて、扉を開けた。


「おかえり、光」


END







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