僕が感じたこの愛を。世界の人に与えたい、と思えるほどの愛を。





りささまへ
2万フリリク企画
「愛しているという声が泣いているように聞こえた」、「心がいつか人を救うのを君はいつでも知っていたの」の続編。少しずつ優しくなる両親、それに対しての謙光











『僕が感じたこの愛を。世界の人に与えたい、と思えるほどの愛を。』



「なぁ光、今度一緒に光の実家帰らん?」


俺んちで飯食ってたら謙也さんがいきなりそう呟いた。驚きすぎて米零したし。

「な、なんでいきなり、そないなこと言うんすか」
「いや、光が死ぬほどいやーって言うなら無理強いはせぇへんけどな。お前全然両親会うてへんやんか」
「はぁ、まぁ」
「光のおかんもおとんもこんな可愛えお前に会いに来ぉへんのおかしい思うけどな、光かて会いに行ってないやん」


両親に会いに行ったらどうか、なんて言われたのは初めてかもしれん。戸惑って何も言えん俺の頭を謙也さんはくしゃり、と撫でて「自慢したればええやん。全国のこととかな」って言うた。

俺には謙也さんがおるからそんなんえぇねん、とは言えんかった。なんやかんや言うても俺はどっかで親からの愛情を求めとったんかな、なんて思う。
それにそう言われてみると、アクションを起こしてないのはお互い様。随分と彼らの顔を見てない気がする。



「…謙也さんが一緒に来てくれるなら、行く」
「おう!当ったり前や!」

家を出たときは正直自分は親を憎んでいたし、もう会いたくないとまで思ってたのに。やっぱり心のどこかに蟠りはずっとあった。それを何とかしたいと思ったことは何度もあったし、会いに行こうかと考えたことだって実はある。でも結局は電話すら出来んくて。

それやのに。謙也さんが一緒なら、なぜか出来てしまう気がした。
義姉さんに来週の日曜日行くから、と電話をいれると嬉しそうに待ってる!て言われた。くそ、もう逃げへんで。



















「光、いけるか?」
「謙也さん…腹痛い…」
「大丈夫か?やめる?」
「あかん、行く…」


やっぱり緊張して不安でどうしようもない。それでも逃げないって決めたから。謙也さんがいてくれるから。

久々に見た、財前て書かれた標札。車があるからおとんもおかんもおる。大丈夫、大丈夫や。
ドアを持つ手が震えた。


「ひーくんおかえりぃ!」
「ただいま」

かわいらしい甥っ子の笑顔を見て幾分か心が軽くなった。



謙也さんと俺の部屋に入る。部屋は俺が出てったまんまで、ちゃんと綺麗やった。義姉さんがきっと掃除してくれたんやろ。「光くんの部屋はお義母さん担当なんやで」なんて俺、信じへんよ。
(なのに、目の奥が熱くなる)



「なぁ光。お前ちゃんと愛されとるんちゃう?」
「…さぁ?」
「初めてお前から両親の話聞いたとき俺本間腹立ったけどな、今はそこまで怒られへんねん」
「…なん、で」
「光もそのうち分かるわ」




コンコン。ドアのノックが聞こえて義姉さんがひょっこり顔出して
「あ、よかったお取り込み中やなくて」
「義姉さん…」
「光くん、台所に善哉あるで行っておいで」
「はーい……」


















台所には、母さんがいた。汗が背中を伝う。でももう、逃げへん。

「母さん、」
「そこに善哉あるで上持って行きや」
「あ、おん…」

あぁもう汗かきすぎて倒れそう。なんで実の母親にこんな思いせんとあかんねん。
「ほな、俺上戻るわ」
「光」
「は、」


「たまには帰ってきなさい」





なんやねん。俺は要らん子やったんちゃうんか。いきなりそんなんされたって信じへんで。でも、目から涙がボロボロ出てきて止まらん。


「や、俺…帰ってきてええの、?」
「……当たり前やろ、ここはあんたの家ちゃうん」




それからは部屋に戻って謙也さんに抱き着いてわんわん泣いた。善哉の味なんて分からんかった。


そのあと、謙也さんから全てを聞いた。今日は本当は母さんと父さんが「光を家に連れて来て欲しい」「光に会いたい」と義姉さんに言い出して実行されたことらしい。その計画に謙也さんも参加した、と。

俺は知らんかったけど、昔父さんの仕事はかなり危ない状況やったらしい(今は回復したらしいけど)。それで、仲良さそうに見えとった父さん母さんも一時は離婚するんやないかって時もあったとか。とりあえず、精神的にかなり追い詰められとった、って。

今思うと心が病気になっとったと思うって。それで、その怒りや憎しみ、悲しみのはけ口が俺やったと。


酷い話や。本間腹立つ、はずやのに。そんなにもう両親を恨むことは出来んくて。それより「会いたい」と思ってくれとることが嬉しかった。思い知らされた。やっぱり俺は親からの愛情を求めてたんだ。







そのあと夕飯食べて俺の部屋で謙也さんと二人で眠った。母さんが作った夕飯。また涙が出た。

でも俺はリビングで食事を採ることが出来んかった(謙也さんと二人で別室で食べた)。何故なら、父さんに会うんが怖かったから。


本当は頑張ってリビングで食べたかったけど、体が動かんかった。俺は父さんに暴力を振るわれとった時期があったから。それが本当に怖くて、結局父さんには会えんかった。




もう随分と使われてなかったベットで、謙也さんに抱きしめてもらう。


「謙也さん、おおきに。俺は謙也さんがおらんかったらこんなこと出来んかった。きっと逃げて、この家にも入られへんかった」
「何言うとんねん。光が頑張ったからや、俺は手助けしただけやで」

「でも俺、やっぱ逃げた。父さんにはまだ会えん、怖いねん…本間情けないすわ」
「光、お前は情けなくなんかない。よぉ頑張った。せやから、俺の前では気張らんくてええんよ」
「………っ、」




謙也さんにぎゅってされて泣きながら眠った。いつもは滅多に見んのに、その日は夢を見た。俺はまだすごく小さくて、優しかった頃の父さんと母さんにたくさん名前を呼ばれて、すごくすごく幸せやった。でも途中で真っ暗闇になって、怖くてしゃーなくて。そしたら綺麗な手が出て来て、俺を抱き上げてくれた。救ってくれた。その手の持ち主は勿論謙也さん。あぁ、夢の中でも俺を助けてくれる。




次の日の朝、俺は謙也さんと一緒にマンションに帰った。




















「ひかるー!わいと打ち合いしようやぁ!」
「ちょぉ待てや金太郎、着替えて来るから」



これからもっとテニスを頑張ろう。もう何にも負けないから。金太郎にでかい声でラリーを誘われた。でも俺はまだ制服やったから急いで部室でユニフォームに着替えた。



















強くなろうって決めたばっかりじゃないか。なのに。ラケットを取り出した瞬間、もう駄目だった。分かって、しまったんだ。今回はもう無理、絶対涙止まらん。



「ひーかるっ」
「っ、けん、や、さ…」


「このグリップなぁ、光のお父さんが巻いてくれたんやで!」




俺のラケットには、綺麗とは言えんけど丁寧にグリップが巻かれとって、それを父さんが俺のためにやなんて。
俺が寝たあと謙也さんが巻き方を教えたって、頑張ってやってくれとったでって謙也さんから聞かされた。あぁもう、俺はいつからこんな泣き虫になったんやろか。




次の週末も実家に帰ろう。そんで今度はちゃんと父さんと話をしよう。






俺の未来を変えてくれた謙也さんは、過去まで修正してくれた。

ありがとう、謙也さん。本間にありがとう。


これから何があったって謙也さんと一緒におる運命だけは変えたくないなって思いながら、いびつだけど世界一美しいグリップをぎゅっと握った。










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続きが書けて良かったです^^このお話の光ちゃん家族なりの和解ってこんな感じかなぁ…どきどき。この光ちゃんはきっとこれから幸せでいられると思います。
りささま、改めてリクありがとうございました!


2009.11.24 アリア


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