いくつになっても





都さんリク
謙光
(初め謙也2年、光1年です)








光の腕を掴んでどんどん前に歩く。うつむいていて表情は見せないけれど、きっと見られたくないような顔をしているんだと思う。俺は少しでも人目のつかないところを探して、光の腕を引っ張り続けた。



(うっまいなぁ!テニス経験者なん?)
(いえ…)
(嘘!絶対才能あんで!入部してくれるの待っとるから!一緒にテニスしよ!)



体験入部の際、光のことを積極的に勧誘したのは俺やった。そのあと光はそのままテニス部に入部、俺は自分が声をかけた後輩が部活に入ってきてくれたことが嬉しくて、たくさん光に絡んだ。


一緒に練習をしているうちに分かったのだが、光はちゃらちゃらしているように見えるけど、実は真面目で練習熱心で、大の負けず嫌い。元々身体能力が高かったこともあるし、その上人一倍練習をする。新入部員はボールを打てる機会が上級生に比べて少ないが、光は他の1年のように「はやくボールバンバン打ちたいわ〜」なんてことは一切漏らさず、一生懸命素振りをした。上達は恐ろしいほどに早かった。



「次の練習試合、財前も連れて行こか」



2、3年生だけ、ということだった練習試合に光も参加させると言いだしたとき、俺は本当に嬉しかった。肩をガシッと組んで「よかったなぁ!」って言ったら、照れ臭そうに笑った。光は素直やないけど真っすぐで、笑った顔は年相応にかわいらしい。もう俺はすでに光に大分興味を持っており、早く光が試合するところ見たいな、ダブルスとかこいつとやってみたいな、なんて暢気なことを考えていた。




だが、光のことをよく思っている先輩ばかりではなかった。そのことは俺も、白石やユウジ、小春も分かっていたのでなるべく光を一人にしないようにしていた。まだ若い、出たばかりの芽を下衆なやつらに摘ませてなんかやるもんか。







しかし、時は突然訪れる。
練習後、荷物を残したまま光が消えた。嫌な汗が背筋をするりと流れた。俺は白石とユウジと一緒に辺りを探しまわった。
たどり着いた体育倉庫を開けた瞬間、光がぶっ飛んできて俺は両腕で支えた。頬を殴られていた。



喧嘩っ早いユウジが先輩たちに殴りかかろうとして、白石がそれを止めている間に騒ぎを聞いた教師が現れた。光の体は小さく震えている。俺は、光をこの場においておきたくなくて、腕を引いて歩き続けた。












「光、ちょっと座ろうか」


結局人目のつかないところ、で思いついたのは俺が鍵を持っている放送室やった。光を座らせて、向かい合うように俺も座る。顔を覗き込むと、頬が紫色に腫れていた。目に涙をいっぱい溜めて、それでもこぼさないように必死に歯を食いしばっている。泣いたってええのに。




「顔、腫れてもーとる。冷すもん持ってこよか?」
「ええです。もうしばらくここおってええすか」
「それはええけど…」
「すみません。」



何て声をかけたらええか分からへん。そしたら光が小さく言葉を発した。



「…これ、俺の親に連絡いったりするんすか」
「や、よぉ分からんけどたぶんいくんちゃう?ちゃんと説明してもらった方が親御さんも安心するやろうし」
「いらんです」
「え?」
「説明、いらんです。俺ん家の人には内緒にしてください」
「どーゆーことやねん、それ」
「心配かけたないから」
「その怪我どーやってごまかすん?」
「転んだって言う」
「…光、そんな言い訳通用せぇへんって分かっとるやろ?」
「………。」
「なんで内緒にしたいの?」





「俺ん家、ちっさい甥っ子おるんすわ。今家族みんな甥っ子が可愛くてしゃーないねん。もうすぐ幼稚園生やって入園するとこ決めるためにパンフレットいろいろ広げてみんな楽しそうにして。そんな中、パンパンに腫らした俺が先輩に目ぇつけられて殴られましたーなんて言って帰られへんよ」
「…つまり、寂しいってこと?」
「ちゃう」
「ちゃうことないやん。家族みんな甥っ子ちゃんが可愛くて、光にとっても可愛いけど、せやけどどっか寂しいんやろ。誰も自分のこと見てくれへんみたいで。そんで、お前は家族の雰囲気壊さへんように、って考えれる優しい子や。」
「…っ」
「光、こっち来ぃ」




光の顔を俺の胸に、Tシャツに擦りつけるようにぶつけて、そのまま背中を撫でた。



「光、そんなに気ぃ張ってばっかやなくてええんやで。家族思いなお前のためにも、嫌な先輩に殴られたことはご家族には内緒にしよ。俺今日の帰り一緒に光ん家行く。そんで光のおかんに部活中にテニスボールが当たってしもたって説明したるわ。」
「謙也さん、」
「やけど、お前が辛い思いしたこととかめちゃくちゃ腹立ったことは内緒にせんでええ。まぁええかって、辛いことをひとりで受け入れたふりすんな。他の奴らよりも大人になったような顔する必要ない。」
「………ぅっ…」




「ええか。悲しい時とか悔しい時は、いくつになったって泣いてええの。そんで、一人で受け止めきれないことがあったときは人に頼ってええの。素直やないお前の場合は難しいかもしれへんけど、例えばそれは俺じゃ役不足か?」
「けんやさん、ずるい…」




こんな風に、こんな時だけ先輩ぶりやがって。


光は声を殺して泣きながら、そんなことをぼそっと呟いた。
いいよ、ずるくて。かわええ後輩が少しでも楽になれるんなら、ずるくていいよ。























「ひかる〜見てこれ」
「なんそれ、写真?…あ、このユニ中学んときやん」
「おかんが押し入れ整理したとき出て来てんて。送ってきた。見て見て〜この光ほっぺに湿布貼っとるよ!」
「あぁ…確かこれは才能満ち溢れなおかつ努力を惜しまない、文武両道であり絶世の美少年であったまさに王子様財前光を羨んだ愚かな先輩とも言えへんようなクズに俺が殴られた頃の写真やな」
「うん、謙也さんはお前のそーゆーとこ嫌いじゃないですよ!」




今よりも幼い顔の光を、大分大人びた光が覗き込む。俺が抱いている肩は相変わらず華奢だ。


まさかあのときは光に恋愛感情を持つなんて思ってなかったけど。あの事件をきっかけに俺は光を前以上に気にするようになって、光は光で前以上に俺に懐くようになって。いくつもの季節が通り過ぎた今でも俺たちは一緒にいたりする。そして、お互いをすごく愛していたりする。遠いと思っていた未来も、二人一緒ならあっという間やった。運命っちゅーのは不思議なものである。



「なぁ、初めて俺の前でお前が泣いたのこの頃やんな」
「まぁそのあと何度でも謙也さんに泣かされる人生が待っていたわけですが」
「え、なにその一方的俺が悪い奴みたいな言い方!お前が原因の時もあったよ!?」
「まぁたしかに、同時に何度も救われる人生も待っていたわけですがね」
「え、突然のデレ期?」
「やって泣いてもええよ、なんて言ってもらったの初めてやったんやで、俺。そんなんずるやん、惚れるやん」
「たまに本気で可愛いよな、お前」
「阿呆。俺はいつでも本気で可愛いわ」





なぁ光、これからお互い年とってよぼよぼになっても、いくつになっても、俺の前で泣いてな。一人で泣くなんて俺が許さんから。そんで、いくつになっても俺の前で幸せそうな顔見せてくれ。いくつになっても、いつまでたっても、




「俺、お前のことだけは一生離せそうにないわ」





光は初めて会った時のような幼い顔で、「そんな当たり前のこと言うな」って笑った。







***
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