日曜の朝





按子さんリク
オサにょた光







昔は若さゆえのプライドやらなんやらで美人でスタイルがええ女が一番!って感じやったけどさぁ、俺たちくらいの年になると見た目が華やかな子ぉよりも気が利く子がええよなぁ。朝早く起きて飯作って優しく起こしてくれるようなさぁ。



久しぶりに一緒に飲みに行った友人はそんなことを言っていた。せやなぁなんて言いながら少し笑顔が引きつっていたかもしれない。今の俺のお姫様は、朝も弱いし料理もへたくそな、ただただ美人でスタイルがええ女の子やった。







「光ちゃん、そろそろ起きぃ。」
「ん…もうちょっと…」
「もうちょっと3回目やで。ご飯出来たから一緒に食おう。」
「…んー、おきる…んー…」
「ってまた寝るんかい」


俺の大好きなこの子は、低血圧で極端に朝が弱い。それこそ付き合い始めたばかり、家に泊まりに来るようになってすぐの頃は彼女も朝早く起きて食事の準備をする、と言ってはいた。この子は気が利かない女の子な訳じゃない、ただ俺よりも大分不器用ではあるが。(自分は昔から小器用だったことはフォローとして付け加えておく。)眠たそうな顔でフラフラしながら苦手な料理をさせることはなんだか危なっかしいし前日体に負担をかけているのは他の誰でもない自分なので、「光ちゃんは夜ごはん担当!」なんて言いくるめて、朝ご飯は無事俺が作ることになった。



俺は一応教師というやつで、彼女は学生。生徒に手を出したなんてやっぱり問題になるし、彼女をセンセイと関係を持った女生徒なんて噂にするのも嫌だった。万が一見つかってしまったら、ということを考えて、高校を卒業するまでは二人の関係は秘密にしよう、と付き合い始めにふたりで決めた。しかし互いに触れ合いたいし、ということで土曜日は部活が終わったら俺の家に来て、泊まっていくというのがふたりの習慣になった。そして顧問の権限で練習試合や大会が組み込まれない限りは日曜は午後練にしている。ずるいとか言うな、普段外でおデートなんかは我慢してんねんからこのくらい許せっちゅーの。





自分がこの年になって、まさかこんなにも甘酸っぱい気持ちを味わうことになるなんて思いもしなかった。今まで人並みに恋愛はしてきたが、人並みの幸せは手に入れてこなかったように思う。女運が悪いのか、はたまた器用貧乏だったせいか。一人暮らしも長くなればなるほど楽で、職業も安定したポジション。今の生活をこれからもずっと続けてゆくんやろうなぁなんて考えていた。



そんな自分に彼女は全力でぶつかってきてくれた。「先生がすきや」なんて真剣な顔で。何度もやんわりと、しかし確実にとどめを刺す方法で断り続けたが、彼女は折れなかった。何度も何度も真っすぐに、しかし若さや美しさ、女の武器は一切使わず、しっかり俺の方を見据えて伝えられる「すき」の言葉にはいっそ男らしさすら感じたほどだ。こんな愛らしい存在を愛すな、と言う方が無理な話や、俺は悪くない。




真っすぐゆえに傷つきやすい彼女を何度も傷つけてきた俺。彼女の気持ちを受け入れて、初めて抱きしめた時、彼女はひとりで立てなくなるほど泣いた。あぁ、まだ少女だ、こんなにも脆い。脆いからこそ。眩くてたまらない。彼女は俺が無くした純粋さや勇敢さ、幸福を全部大事に抱えて俺を追いかけてきてくれたのだ。





「光ちゃん、そろそろ起きて。ご飯冷めるから!ほらおはよーさん!」
「んぅ…おさむくん、だっこ…」
「はいはい」






うちのこと財前って呼ぶのやめて。光ちゃんって呼んで。呼び捨てはいや。ドキドキして泣きたくなるから。


そんな彼女は俺のことを「オサムくん」なんて呼ぶ。対等でありたいっていう気持ちの現われなんやと思う…けどさぁ。オサムくんって。まぁええけどさぁ。



首に縋りついた彼女を抱きかかえて少し寝癖のついた頭を撫でると、ぼーっとした顔のままくちびるを奪われた。ほんまこいつは!



「おっまえなぁ…ひとまわり以上年上の男をリードしようとするな。しかも起きぬけの一発目からべろちゅーって。」
「ん、ごちそうさま?」
「いやちゃうから。おっさんからかわんとちゃんと起きてちゃんと飯食えってことやから。」
「ごはんよりもオサムくんがいい!」
「俺もーおっさんやねんぞ。無理させんなっての」
「え?光に上乗っかってほしいってこと?もうしゃーないなー、光頑張るぞ!」
「ちゃう。頑張るな。オサムの作った飯をたべてほしいってことや」
「ちぇっ。じゃあオサムくんちょっとそこのブラジャー取って」
「お前ホンマに泣くで…」



ようやく目を覚まして、いただきますと手を合わせる。食事をしている姿も彼女は美しい。
目を爛々と輝かせて「オサムくん、これおいしい!」なんて言うもんだから思わずわしわしと頭を撫でた。自分のためだけだった料理も今ではすっかり彼女のためだ。








本当は俺、怖いんだ。なんやかんやと言ってどんどん彼女にはまっていく自分が。まぶしくて愛おしい小さな背中に縋りついてしまいそうな自分が。彼女はまだまだこれから、将来がある。これからどんどん綺麗になっていく。自分はこれからどんどん年老いて行く一方やというのに。
やって、初めてやったから。こんなにも一生懸命自分を求めてくれたのは、彼女が初めてやったから。





「なぁ、オサムくん。」
「ん?」
「うち、高校卒業したらさぁ…ここにきてもええ?」
「え?」
「やからぁ…ここでオサムくんと一緒に暮らしたいんやけど。」
「………。」
「まだまだ料理も下手くそやけど練習するし。うち、オサムくんともっと一緒にいたい。これからもずっと一緒になりたい。ねぇ、頑張って早く大人になるから。」
「アカン。」



彼女が痛そうな表情をした。やっぱり、普段は強気なのにこーゆーところは儚い。
儚いからこそ美しいし、大事にしたいって、思う。




「ここで暮らすのはアカン。光ちゃんが卒業したらもう少しええ部屋に引っ越そ。」
「え…?」
「急いで大人になろうとしなくてええから。おっさんそのくらい待てるっちゅーの。大体お前せっかちすぎ。そーゆーことは俺から言わせろ。もう少し光ちゃんが大きくなったら俺からもっかいちゃんと言うから」
「…いやや。やっぱり早く大人になりたい!!!」



未来ある少女のこれからを縛るようなことして、俺ってばダメな大人。せやけどしゃーないねん、もう離せそうにない。離せそうにないくらいなら、これから一生面倒見てやるしかないやん。




「オサムくん、だいすき」
「おー」
「なぁ、オサムくんは?うちのことすき?だいすき?ちょーあいしてる?」
「うん。光のことすきやしだいすきやしちょーあいしてるよ」
「…呼び捨てはアカンってゆーたやん。心臓止まった」





俺はダメな大人やから、彼女が高校卒業したらええ部屋引っ越して親御さんに挨拶もして指輪も買うて、大人の戦い方でこの子の全てを手に入れる。この子を失うくらいなら、一生ダメなままでいい。



「ひかるー。すきやでー。」
「やから呼び捨てはアカン!」
「お前の照れどころっていまだによぉ分からんな。まぁそこが光のかわええところなんやけど」
「もー!やめてやぁ!恥ずかしくてしぬ!」





俺はダメな大人やけど、お前のこと絶対幸せにするよ。誰よりも可愛がって、誰よりも優しくしたい。どうかお前のまぶしいくらいの未来の隣に、俺も並ばせてくれないか。なんでもまぁしゃーないか、で済ませてきたダメ人間な俺が唯一願う本気の夢なんだ。
そんな祈りを込めながら、光の柔らかな体を抱きしめた。




***
リクエストありがとうございました!






[ 3/10 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -