1.言葉にならなかったからで、





僕が君の手を、


握り返したのは、




言葉にならなかったからで。












その時の気持ちなんて言葉になんか、ならなかった。


これからも一生隠し通して、俺だけの秘密として、ずっとずっと大事にして、って思ってたのに。


卒業式の日。「せいぜい高校でも頑張ってくださいよ。あんた阿保やから心配やわ」って言ってくると思うてた光が、ぼろぼろ泣いて。俺の学ランの裾をぎゅって握りしめて、鳴咽が漏れるくらいに泣いて。消えそうな涙声で「すきです」なんて言われたときにはその手を握り返しとった。

(実際、それだけや勿論足りんくてぎゅぅぎゅぅに抱きしめたわけやけど)




「ひかる、」
「…はい」
「俺も、光だいすき」
「………どーも」



本当は、言葉だけじゃ伝えきれない。光は知らんやろ?俺がお前をどんだけ好きなんか。ほんの一握りでもええから、伝わってくれ。
気がつけば、俺の目にも涙が浮かぶ。



「謙也さん、俺あんたと同じ高校に行きます」
「うん、待っとるよ」
「謙也さん」
「うん」
「…あの、」
「うん」
「……置いていかないでください」



珍しい光景だった。いつもはよう喋らん光ばかりが俺に気持ちを伝える。いつも馬鹿みたいに騒ぐ俺は光に「すき」やと伝えたあとは頷くことしかできず。小さく綺麗な光の手を、強く握り返す、ことしか。




春はすぐそこやってゆうのに冷たい光の手は俺が強く握りすぎたせいで温かくなっていて。なんや光の手やないみたい、って思ってたら、繋いでない方の光の手が俺の頬に触れた。


「謙也さん、泣くな」
「…お前に言われたくないわ」
「ははっ、だっさ」
「光、」
「…はい」
「置いてってなんか、やらんからな。ちゃんとついてこいや」




俺がその手をひっぱってやるから。





俺の頬に触れた光の手はひどく冷たくて、それがどうしようもなく安心したんだ。






自分がこんなに話すことが不可能になるやなんて想像もしてなかった。
でも、俺らには手があるから。


人間の体の全ては、愛を伝えるためにあるんやないか?

そんなことを、真剣に考えた。





お題提供:「確かに恋だった」さま
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