0305(にお幸/誕)





(どこ行ったんじゃ、幸村の奴)


今日は幸村の生まれた日。俺にとって特別な日。俺は小さな花束を持って校内をうろうろ、あいつを探す。
俺が幸村に花を買うのは二度目。一回目は、あいつが入院したときじゃ。一見か弱そうなあいつは、実際はとても強く、そして、脆かった。

幸村が倒れたとき、一番に駄目になったのは俺だった。真田は今までどおりみんなに厳しくしたし、丸井はいつも通りお菓子を食べながらみんなをからかったし、柳もきちんとデータをとった。ジャッカルは今までどおりパシられとったし、柳生はみんなを優しいまなざしで見守る。あの赤也でさえ、頑張って笑っていたっていうのに。俺は飯が食えなくなって、夜眠るのが怖くなって、幸村に会うのが怖くなって。

学校にも行けなくなって、幸村の見舞いにも行けんくなって。そしたら丸井が俺のことぶん殴ったんやったのぅ。「幸村くんがお前に会いたいのが分かんねーのか!」って。それで焦って花買って病院行ったら俺の青白い顔見た幸村に「これじゃそっちが病人か分からないじゃないか」ってまた怒られたんじゃ。プリッ。


幸村は病気と一生懸命戦って、勝った。テニスをもう一度するためにあいつは頑張っとったけど、俺は正直、生きててくれるだけでよかった。俺があいつの見舞いに行けなくなったのは、やつれていく幸村を見たくなかったからなんじゃ。幸村が俺から離れてくのが、怖かったんじゃ。でも、もういいんだ。だって幸村は、ここにおる。


「あ、おった」

机に向かう幸村の後姿。ピンと伸びた背筋はあいかわらず美しい。


「あ、におー」
「お前さん、何しとるんじゃ」
「書類まとめてんの。先生に頼まれたから」
「まったくお前は…いつもしっかりきっちりしとるからそうなるんじゃ。俺を見てみろ、いつもだらだらしとるおかげで何にも頼まれんぜよ」
「それぜんっぜん自慢になんないからね」


ふふ、って笑う幸村。かわええ。良かった、こいつを失わずに済んで。こいつの誕生日を、一緒に迎えられて。


「ほれ、おめでと。誕生日」
「わ、ありがとう。覚えてたんだね。…綺麗、」
「恋人に贈るけぇ可愛いの作ってくださいーっつって花屋さんに作ってもらった」
「嘘?はは、仁王かわいー」

幸村の細くて綺麗な指は少しだけ花をいじったあと、俺の手をきゅって握った。

「ブン太にね、幸村くんはだめんずうぉーかーだねって言われちゃった」
「だめんずうぉーかー?」
「駄目な男を好きになっちゃう人のことだってさ」
「あの子豚…!」
「だからね、そんなことないよって、言っといたからね」


神様、こいつがここにいてくれてありがとう。これから、幸村を失うかもしれない恐怖なんて、二度と味わいたくない。柔らかい髪も、透き通るような肌も、真っ直ぐな目も、華奢な体も、俺を好きだと紡ぐ唇も全部、これからはちゃんと俺が守る。


「幸村のこの一年の抱負は健康に過ごすことで決定じゃ」
「うん、努力するよ」
「努力するやないわ、義務じゃ義務」
「そんな心配しなくても、もう仁王の前からいなくなったりしないってば」
「…幸村、好いとぉよ」
「うん、知ってる」


これからもきっと俺はこいつに振り回されるけど、それも悪くない。幸村の前じゃペテン師なんて称号は、なんの役にもたたんのぅ。でも、それでいい。俺はもう知ってるから。

変わらない毎日の、大切さを。


HAPPY BIRTHDAY! SEIICHI




- 94 -


[*前] | [次#]
ページ:




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -