1.此花散るは誰がため?




・光は遊女、ユウジは忍者
・死ネタなのでご注意!!
・続きます










今日の朝、一人の忍者の死体が発見された。緑色の髪、赤い血。顔は、驚くほどに真っ白で。…それは、間違いなく俺を救ってくれた人。俺の愛した人。ユウジさんやった。



俺は幼いときに両親も兄も亡くした。それも、目の前で。みんな俺を庇った。逃げろって言った。その場は凌げてもいつかこれでは捕まってしまう。道の隅で食べるものも無く、霞んでく視界。そんなときに俺を拾ったのが今のご主人やった。


俺ん家は貧乏やったから勉強なんてしたことがなくて、俺は字すら読めなかった。特別な技術も持ってなかったから、長所と言えば外見だけで。世の中には見た目がよけりゃ男でも抱けるっていう物好きな男が案外たくさんおるようで。俺は、生きるために、遊女となった。


女物の着物着て、化粧して、男に抱かれて。本当に死んでしまいたいくらい辛いときもあった。でも俺には出来ることは何もない。住むところも食べるものも与えられるんならこの職しかない。俺は死ぬわけにはいかなかった。父さんも母さんも兄ちゃんも、俺が生きることをきっと望んでるから。

でも、実際は結構限界で。


「…盗人でも下級武士でも誰でもええから、俺の話聞いてくれへんかなぁ」
こんな言葉に反応してひょっこり屋根裏から出てきたのが、ユウジさんやった。



こんな俺の言葉ですぐ出てきてしまうんやからとんだお惚け者かと思ったけど、ユウジさんはどうやら凄腕の忍者らしかった。彼は週に2,3回、俺のところに現れて、たくさん話を聞いてくれた。たくさん楽しい話もしてくれた。


俺はユウジさんと出会って、初めて泣けた。初めて心から笑えた。初めて、人を好きになった。ユウジさんは、決して俺を抱こうとはしなかった。ただ髪を撫でてくれた。
いつしか彼は、俺の生きる理由になっていた。



「光、少し痛いかもしれへんけど、ええ?」
「ええですよ、痛いのなんて慣れっこやし。…ユウジさんになら、痛いことされたって平気」
「ん、おおきにな」


ユウジさんは、俺の耳にひとつ、穴を開けて。耳飾をつけてくれた。
「…綺麗。」
「痛くないか?」
「平気です。ユウジさん、おおきに。俺、めっちゃ嬉しい。生きてきた中で、一番」
「…光、好きやで。俺は、光が好き」
「…ユウジさん…っ!」


こんなに汚れた俺を、ユウジさんは愛してくれた。その日初めて、俺とユウジさんはひとつになった。辛くて死んでまいそうやと思ったことは今まで何度でもあったけど、嬉しくて死んでまいそうやと思ったのは初めてやった。人に抱かれて気持ちええと思ったのも初めてやった。



「ん…、ユウジさん?」
「光、朝が来る。俺は忍者やから、ここにはおれへん。またお前に会いにくるから、な?」
「はい。ユウジさん、」
「なんや?」
「愛してる、なんて言うたら重いですか?」
「俺も愛してる」
「!」
「重いか?」
「…全然!」
「光。どんなに辛いことがあっても俺がおるから。やから絶対、死ぬな。この時代を、生き抜け」
「はい。ユウジさんも」



ユウジさんが来たのは、これが最後。それでこの遺体は、ユウジさん?


「ゆ、うじ、さん、」


嫌や。なんで俺のことひとりにするんですか。死ぬなって言うたのはユウジさんやないですか。生き抜けって言うたやないですか。人を愛することとか、教えてくれたのはあんたやないですか。あんたのせいで俺は太陽が、あんたとの別れを告げる太陽が、嫌いになってしまったんですよ?


「嫌や!ユウジさん!一人は嫌!!ユウジさん!ユウジさん!!」


俺の叫びは誰にも届くことはなく、ユウジさんの死体はどうなったか分からない。ユウジさんは忍者や。町の者の生活は何一つ変わらない。変わったのは、俺だけ。ユウジさんがくれた赤い花の耳飾は今日も虚しく光る。


俺は死なない。生き抜く。ユウジさんとの約束。これからは両親と兄と、ユウジさんを背負って生きていくんや。俺はどんなに汚れたって構わない。今日も男に、抱かれる。


「はじめまして。光です。お兄さん、やさしゅうしてな?」


一握りの愛しさで、俺は生きられる。花の命は短いらしい。どうせなら、美しく散ろうって、決めたから。


この日から、俺はまた泣けなくなった。





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