0317(謙也誕)
「謙也さん、今日俺謙也さんから逃げ切りますから。しっかり探してくださいね」
忍足謙也。3月17日生まれのB型。今日は俺の誕生日。そんな日に(しかも早朝)いとしの恋人、光から一枚の紙を渡されて逃げられました。いや、ぜんっぜん意味分からへんのやけど。探すってどういうことやねん!
とりあえず貰った紙を開いてみる。
−@あかい頭のあいつ
あかい頭?って金ちゃんやろ、多分。ちくしょ、なんでせっかくの誕生日やのに光に会えへんねん!意地でもさっさと見つけ出していちゃついたるからな!!
「あ、金ちゃん発見!!」
「おーけんやぁ!誕生日おめでとさんっ!!」
「おおきに!ってそれより金ちゃん、光からなんか預かってへん?」
「光から?…あぁ!今朝もろたでー!ほい!」
金ちゃんはポケットからくしゃくしゃの紙切れ出して俺に渡してくれた。
−Aいやし系男前
…俺?いやいやちゃうやろ。あまのじゃくな光が素直に「男前」なんつって褒める奴はひとりしかおらへん。
大体仕組みわかってきたで。光、待っとれやー!!
「おぉーい!銀発見!!」
「謙也、誕生日おめでとうさん」
「おおきに!なぁ銀、」
「謙也が言いたいことは分かっとる。ほれ、財前からや」
きちっと折りたたまれた紙。金ちゃんのとは大違いや。急いでそれを開く。
−Bしろい包帯
…分かりやすすぎやろ!ひねり無いわ!まぁええ、とりあえず教室行こう。どうせあいつのことやからもう教室に来とるはずや。せやろ、しろい包帯!
「白石―!!」
「おぉ謙也。誕生日おめでとさん。これ俺からのプレゼントな」
「なんなんこれ…」
「紐パンとブラや。財前に履かせろ、そんでそのあとは俺に返せ」
「それ全然プレゼントちゃうし!!てかお前気持ち悪!!」
「ほんの冗談やってー」
「いや、お前の目は本気やった!!」
まぁまぁって俺宥めながら小さい紙を出してくる白石。そうやった!本来の目的忘れるところやった。
−Cてきとー人間
「…白石、俺1限さぼるからなんや適当に言うといて!」
「ちょ、謙也?!お前どこ行くねん!」
白石堪忍!てきとー人間はどこにおるか分からんから時間かかんねん!
校舎の周りとか空き教室とか体育館裏とか探しまくって、裏庭。おった!のんきに昼寝しとるてきとー人間!!
「千歳!!」
「んー、けんやぁ?」
「ちょぉお前紙よこせ!光からもろたやろ?!」
「紙?」
「あぁもう寝ぼけとるし!!わかったからそのまま大人しくしとって!!」
むにゃむにゃ言うとる千歳無理矢理立たせてポケットに手つっこむ。なんやこいつのぽっけ飴ちゃんだらけやし!!女子か!!あ、紙あった。
−Dいつでも一緒
よっしゃ、今回は簡単に見つかりそうや!
「小春、ユウジ!!」
「おー謙也、お前今日誕生日やろ?この前貸した200円返せ」
「なんやお前言うとることおかしいで!そこは今日と言う日に免じて見逃してくれるろころやろ!!」
「謙也くんおめでとー!あたしケーキ作ってきたんよ☆」
「なんやてぇえぇ!!小春ぅぅ!!」
「あとこれ、光ちゃんから!あの子本間可愛いことするわねー!」
−Eまぁまぁ常識人
またひねり無いな。まぁええわ、頼むで常識人!!
「健二郎!」
「謙也、誕生日おめでと。ほら」
「おおきに!」
俺が何も言わんくてもさっと紙出してくれる健二郎。さすが常識人や!!
−Fすうじを並べてください
お疲れさん。紙はこれでおしまいです。
さぁ俺はどこでしょう?
紙はこれでおしまい?俺はこのみんなにばら撒かれた紙を集めれば光がどこにおるのかわかるもんやと思ってた。せやのに俺はどこでしょうって…
てか、数字を並べてください?この紙の最初に書いてある番号順にか?なんかの暗号か、もしかして光がどこにおるか分かるとか?
「…光の阿呆!!」
「わ、ちょ、謙也!!財前からもう一個伝言で…って行ってもうたし。まぁそのうち気づくやろ。最後の紙は裏も見ろって。」
健二郎がまだなんか言うとったけど、俺にはそれを聞いとる余裕なんか残ってなかった。早く光に会いたくて仕方ない。光がみんなに配った紙の頭文字を順番に読んでみる。
@あかい頭のあいつ
Aいやし系男前
Bしろい包帯
Cてきとー人間
Dいつでも一緒
Eまぁまぁ常識人
Fすうじを並べてください
あ、い、し、て、い、ま、す
−愛しています。
朝千歳を探したとき以上に必死になって光を探す。まだ3月やって言うのに汗だくや。いろんなところ探し回っとるのに光は全然見つからん。
埒があかんくて、もう一回紙をしっかり読んでみる。ん、なんや最後の一枚の裏に…
−俺は謙也さんの声が好きです
俺は放送室目掛けて一目散に走り出した。
バタン!
「光!!」
「謙也さん、遅かったっすね」
「お前なぁ、散々人のこと困らせよって!」
「結構楽しかったでしょ?」
「楽しかったでしょ?ちゃうわ!!俺はお前に会いたくて仕方なかったっちゅーねん!!」
あぁ、やっと光のこと抱きしめれた。どうしようもない愛しさが胸にこみ上げる。
「…お前、好きなのは謙也さんの声だけか」
「……そんなわけないやないですか。」
おかんおとん、俺を産んでくれて本間おおきに。生まれてよかったってこんなに強く思ったのははじめてかもしれん。
「謙也さんの声が好きです。笑顔が好きです。優しいとこが好きです。素直なとこもあったかい手も、おっきな背中もパサパサの髪の毛も、真剣な目も右だけできるえくぼも、全部全部、大好きです。」
謙也さん、誕生日おめでとう。
光がそう言う前に唇をふさいでやった。可愛い恋人が腕の中にいて、俺を好きやって言うてくれる。なんて素敵な誕生日。
きっとこの一年も、俺は光のことでいっぱいなんやろうなぁ。そうやって一年が十年になって二十年になって、ずっとずっと一緒におりたい。上手く言葉にできないくらい、光が愛しすぎてたまらん。
「光、ありがと。ついでにもう一個わがまま言うてもええ?」
「…どーぞ」
「あの紙に書いてあったこと、声に出して言うてほしいな」
「…そんなんはずいから嫌や」
「えーええやん!一回だけでええから!な!」
「…謙也さん、愛しています。」
うん、知ってるよ。そんでもってな、俺はそれ以上に、お前を愛してる。
HAPPY BIRTHDAY! KENYA
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