036(オサ蔵/誕)




俺が好きで好きで仕方が無い人。今日で27歳。いつもなんやかんや言うとるけど、やっぱりこの人は大人で。俺よりもずっと先を生きとる事実は変わらない。

例えば、俺がこの中学の生徒やなかったら、テニスをしてなかったら。きっとオサムちゃんには出会わなかった。今俺を後ろからぎゅっと抱きしめるこの手のあたたかさも知らないままだった。


「オサムちゃん、誕生日おめでと」
「おー。おおきにな」

俺はもうすぐ、この中学を卒業する。俺は府内の高校に進学するし、きっとオサムちゃんが俺とタメやったらなんの問題もなく付き合いは続いたと思う。
でも、実際は埋まらない年の差があって。


時々、いや嘘。本間は毎日思う。もしも俺と付き合ってなかったらオサムちゃんは綺麗な女の人と結婚して、子供も授かって、今よりもっともっと幸せになれるんやないかって。教師をやっとるくらいなんやから子供やって大好きなはずやし、本間は欲しいに決まっとる。

俺はどんなにテニスが上手くたって、外見が大人っぽいと言われたって、男子中学生や。高いプレゼントやって買えへんし、子供やって産めへん。


「…白石、今日は先生が生まれためでたい日やろー?泣かんといてや。んで、なにが悲しいか話してくれんか?」
「…子ども扱い、すんな」
「俺子ども扱いなんかお前にしたことあらへんで?」

「しとるやないですか!!俺はあんたに追いつけん!勝手にどんどん先に進んで、どんどん俺から離れてって…!俺ばっか、俺ばっかりあんたのこと考えて、もう、なんなん…っ」


オサムちゃんは泣きじゃくる俺の頭をふんわり撫でる。俺の好きな笑顔。大好きな笑顔。


「どんどん進んでくのはお前の方やないか。来週お前卒業すんのやで?置いてけぼりは俺。」
「そんなんしゃーないやんか…」
「せやけど、お前は俺から離れようとか考えとるんやろ。お前俺のことそんな好きやのに、それはちょっとおかしいんちゃう?」
「え、」


オサムちゃんは全部分かってたんや。俺がいろんなこと気にして一人でぐだぐだ悩んどることも気づいてたんや。それでも俺がオサムちゃんから離れられんことも気づいてたんや。


「言うとくけどなぁ、俺はお前からそう簡単に離れてやらんからな。お前がオサムちゃん嫌いやー言うなら別やで。でもそうやないならあかん。俺が好きならちゃんと一緒におってや」
「…卒業しても?」
「そんなん当たり前やろ!」


オサムちゃん、好き。
そう呟いたらオサムちゃんは俺に覆いかぶさる。少しだけヤニ臭いキスも今となっては甘く感じるくらいに愛おしくて。こんなに幸せにしてもらったら、どっちが誕生日か分からんな。視界の隅にオサムちゃんがいつも吸っとるタバコと俺がなけなしの小遣いで買ったジッポが映る。



「せや、オサムちゃん。俺のこと子ども扱いしたことないって言うたよなぁ?」
「おん、言うたで」
「俺、それだけはやっぱり納得いかへんのやけど。」
「阿呆。俺が白石にしとるんは子ども扱いなんかやないわ」


耳もとでそんな言葉を囁かれたら、どうしたらいいのか分からなくなるじゃないか。オサムちゃんの阿呆。おっさん。好きや。



−俺が白石にしとるのは、お姫さん扱いやで?


HAPPY BIRTHDAY! OSAMU





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