チョコレートキッス






2月14日。バレンタインデー。


俺には恋人はおるけど、それはかわいらしい女の子なんかやない。俺よりもでっかくて、男らしい男や。せやからバレンタインなんてもんは俺らには無縁の行事。…って思っとったはず、やったのに。


「はぁ。これ、どないせぇ言うねん…」
2日前にうっかり謙也さんのために作ってしまったチョコレートのカップケーキ。俺はこんなキャラちゃう。料理なんて普段はせぇへん。せやのに、謙也さんはベタなんが好きやから、俺があげたら喜ぶちゃうんかなぁって思って気づいたら行動に移しとった。


しかも今年のバレンタインはちょうどええことに日曜日。俺は週末はほぼ毎週謙也さん家に泊まりに行っとる。せやから今日も例外なくそんな展開。いつものようにあまったるい夜を過ごして、朝は謙也さんのが必ず早く起きてあったかい飲み物とか朝飯とか作ってくれたり。俺は基本朝飯とか食えへんねんけど、謙也さんが日曜の朝に作ってくれるホットケーキだけは食べれた。めっちゃ美味いってのもあるけど、謙也さんが俺の体大事にしてくれとるんが嬉しくて幸せな気持ちになれるねん。


いつもは謙也さんが起こしてくれるまで爆睡やけど(やってめっちゃ体力使うし)今日はちゃう。目ぇは覚めとる。寝たふりしてベットの中で丸まりながら今日のこと考えとる。はぁ、どうやって渡そ。てか渡せるんかなぁ俺。はずすぎるんやけど。


「光、おはよ!起きれる?しんどない?」
「…おはようございます」
「ん、寝癖ついとる。かわええ」

謙也さんが俺を起こしに来た。大きなあったかい手で頭を撫でられればすっかり俺の心はふにゃふにゃに解されてしまう。「ご飯出来とるから一緒に食べよ」なんて可愛いけどかっこいい笑顔で言われて体を起こされる。それから手繋いでテーブルまで移動して。あー、俺本間この人が好きや。


いすに座ると、謙也さんがいつものようにあったかくてふわふわのホットケーキを持ってきてくれて。
でもいつもと違う。いつもならホットケーキにはあまーいシロップがかかっとるはずやのに。


「謙也さん。これ、今日何の日か知っててやってますか」
「ふは、当たり前やろ!」

ホットケーキには、チョコレートソース。お皿の端っこには小さなハート型のチョコレート。


「ほら、俺たち男同士やん。光こんなん寒い言うて嫌がるかなーとは思ったんやけどさ、やっぱり恋人やし、なんかしたくて。そしたらこんなんしか思い付かんかってん」
「…そっすか」
「嫌やった?いつもやつのんがええなら俺のと代えたるよ」


俺が恥ずかしがって出来へんことを何でも簡単にやってのけるこの人は本間にずるい。いっつも俺に押し付けることなく、でもしっかり自分の気持ちを伝えられて。その上俺の心をがっしり掴んで離してくれへん。

でも掴まれっぱなしはやっぱり悔しい。謙也さんに思いっきり抱きついてやる。

「謙也さん、俺のバックん中、見てきてください。」
「へ?」
「ええから行ってきてください!」


俺に急かされて慌てて部屋に戻る謙也さん。聞こえるのは喜びの声。カップケーキ片手に半泣きになりながら帰ってきた彼がどうしようもなく愛しい。


謙也さんのことは大好きやし、俺はあんま素直になれへんけどそれでもあの人はいっつも分かってくれる。せやけど、たまにはこーゆうんもええな。謙也さんが大好きなんやって、実感出来るから。


真剣な謙也さんの顔がちょっとずつ近づいてくる。あぁ、これからするキスはいつも以上に甘いんやろなぁってしっかり働かない頭の片隅で思いながら、俺は目を閉じた。


来年の今日も、一緒がいいな。




- 83 -


[*前] | [次#]
ページ:




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -