愛してあげるから、愛して。/後





成長して環境が目まぐるしく変わってく中、謙也さんが隣におることだけは変わらなくて。それがどんなに幸せかなんて、ことばじゃ表現出来へんくらいやった。



珍しく謙也さんから帰りが遅くなる連絡が入って、でも俺は真っ直ぐ家帰ってきた。バイト仲間はみんな好きやけど酒とか飲み会はあんま好きやないから。弱いし。

謙也さんもたまには友達と遊んどるんやろ。それかまた勉強かな?とりあえずご飯でも作っといてやろかなーなんて考える優しい俺。



謙也さんはいつだって妥協しやんかった。二浪してちゃんと医大に入って頑張っとる。それでも、徹夜してでも課題を終わらせて日曜は必ず二人で過ごす時間を作ってくれる。

謙也さんは、俺の誇りやった。いつもは素直に言えんけど、本間は大事で大切で仕方ない。俺から謙也さんを取ったら、正直言って空っぽや。














あまりに帰りが遅いもんやから何回か連絡してみたけど繋がらへん。まぁ一応大人やし、か弱い女の子ちゃうねんからそんな心配要らんとは思うけど、先に寝るなんて出来んくて。俺本間良妻賢母や。実際は妻でもないし母でもないけど。

そしたらインターホンが鳴って。あぁ、謙也さん鍵持ってくの忘れたんかな。起きとってよかったなーなんて思ったんやけど。





「はーい……って侑士くん?!」
「光くん久しぶりやなぁ」
「はぁ…あの、すみません、それ」
「はは、かめへんよ」


ドアを開けたらまさかの侑士くん。べっろべろに酔っ払ってきゃっきゃ騒いどる謙也さん抱き抱えるようにして連れて来てくれた。「ひかりゅぅ〜!」ちゃうわ阿保!


侑士くんはたまたまこっち帰省しとったみたいで謙也さんから誘われて飲み行ったらしい。


「もう謙也とは絶対飲みたくないわぁ。突然泣き出したり笑い出したりゲロ吐くしで敵わん」
「本間すみません…」

侑士くんは中学のときしてただっさい丸眼鏡を卒業して、男前度がめっちゃ上がっとった。
てか本間なにしとんねや謙也さん…。そりゃ疲れとるのは分かるけど、なぁ?




「ほな、俺帰るな」
「はい。侑士くん本間ありがとうございました」
「………なぁ、光くんさ、謙也となんかあった?」
「え、いや…なんもないですけど」


「そか。ならええんや。なんや謙也、光くんにめっちゃ謝りながら泣いとったで喧嘩でもしたかと思ってな」
「……それって、どうゆう……」


プルルルルル…
「やっば…光くんごめんな?もう行くわ。景ちゃん電話出ぇへんとすぐ拗ねよるから」
「あ、はい…お世話さんでした」




謙也さんが俺に謝っとった?…ってなんやねんそれ。謝られるようなことされたか?てか謙也さん酒癖悪すぎやろ。めんどくさ!




「ひかりゅ〜!いちゃいちゃしよ〜〜」
「…謙也さん、なんかあったん?ちゃんと言うてくれへんと嫌いなるで」

ずるいなぁ俺。わけわからんような状態になっとる謙也さんに詰め寄って責め立てて。


「…きらい、ならんでよ」
「ちゃんと話してくれたら嫌いにならん」
「やって、おれ、うざいねんもん…」




謙也さんは泣きながら話し出した。笑い上戸に泣き上戸って…本間これから酒は飲まさんとこ。





「ひかる…俺な、いつも不安やねん。光は俺とおってしあわせなんかなって。光の時間ばっか奪う俺は彼氏失格なんやないかって。…お、おれなんて、おらんほうがええんかなって、……光は女の子と付き合うたほうがええんやないかって」
「あんた本気でそんなこと考えとったん?」
「……いつも考えとる…。光はいつまで俺と一緒におってくれるんかなって、光が俺のもんになってくれたあの日から、ずっと…」
「じゃあなんで言ってくれへんかってん」
「俺は、光を…守ってやらなあかんねんもん…しっかりせんとあかん、から……うぅ〜っ…」



なんやねん俺。俺の弱さが謙也さんをこんなに追い詰めてたんか。ごめんなさい謙也さん。俺は安心しきっとった。謙也さんはいつだってめっちゃめちゃたくさんの愛を俺にくれたから。俺が言葉にせぇへんせいで謙也さんは傷ついとったんかもなぁ。



「謙也さん、ごめんな。俺、本間…えっと…」
「………………」
「なんて言うたらええのかわからんけど、俺はずっと謙也さんのこと、」
「……ひかる」
「はい?」
「…きもちわるい……」
「は?………っちょ!まて!吐くな!とりあえず口押さえて!」




あぁいろいろと台なしやわ。それからとりあえず謙也さんを寝かし付けて俺も寝た。明日はちゃんと謙也さんを安心させたげたいなぁ。











次の日。朝起きたら謙也さんはもうおらんくて、帰ってきたら玄関でケーキ片手に土下座しとった。




「ひ、光さま…昨日はとんだご無礼を……」
「謙也さん昨日のこと覚えとるん?」
「うぅ…侑士と飲んで、めっちゃ吐いたことくらいしか……」
「じゃあ謙也さんが俺は彼氏失格や〜って言うとったのは覚えてへんのですね」
「えぇえぇぇえっ!?まじで!!?」
「バイト先覗きに来たことも侑士くんから電話で聞きました」
「くそ侑士いいい!何言うとんねやあいつぅう!」




ああもうやってもうたー!言って大騒ぎしだす謙也さん。そのあと二日酔いの頭痛で悶えとったけど。
やってもうたのは、俺やわ。勝手に大人になった気になっとったけど、まだまだ餓鬼やな。



「謙也さん、俺、彼女なんか一生いらん。謙也さんとずっと一緒におりたいんです」
「え、」
「今まで俺は謙也さんに甘えてばっかやった。…でも本間は、これからも甘えてたい。そんで、謙也さんも俺に甘えてほしいねん」
「ひかる…」


「今までいっぱい不安にさせたこと、こんな言葉じゃ償えへんけどさ、」



あぁ。この痛んだ金髪に恋い焦がれてた時が懐かしい。そんな彼が手に入った今、離してやる気なんて一切無い。




「俺の人生を、謙也さんにあげる」





謙也さんは震えてた。泣きそうな、でも嬉しそうな何とも言えん表情をして、おもいっきり俺を抱きしめる。



「光ぅー!!!」
「うわ、酒くっさ」
「え?!嘘やん!!」
「嘘や。それよか俺はよケーキ食いたい」
「お、おん!」




ようやくリビングに移動しようとしたら謙也さんが「あ、そうや」って振り返った。




「俺の人生も、光に全部やるから、な」





全くこの人は。本間に俺専用に出来とるんちゃうやろか。


にやけまくっとる顔見られんように「しゃーないからもらってやりますわ」なんて言うて大きくてあったかい背中に抱き着いてやった。



…勿論この背中だって、俺のもの。





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