ねぇ、傍に置いてね(塚リョ)
「…越前、どうした?」
ただでさえ老け顔だっていうのに、またひとつ年を重ねようとしてるかっこよくて誰よりも強い、俺の恋人。抱き着いた彼の体温は見かけによらずなかなか暖かい。
初めは、この人に興味があったわけじゃなかった。俺にとってはテニスの強い人はすべてが興味の対象で、彼もその一人。実際に関わってみて驚いたのは、その強さ。それと、威厳に満ち溢れた中の優しさだった。
だけど。どんなにテニスを練習しても、二歳の年の差は埋まることは無いんだ。
(あ、今日で三歳差か。)
「部長。今日、誕生日っすね」
「ああ」
「でも俺にとってはめでたくもなんとも無いんで、おめでとうなんて言わないから」
「ああ」
「プレゼントなんて用意して無いんだからね」
「構わない」
彼を好きになったときは自分でも戸惑った。相手はあの手塚国光で、ドイツだか九州だか知らないけど急に居なくなってしまう(まぁ俺も人のこと言えないけどね)。それで、俺が会いたくてたまんなくなる頃にタイミングよく帰ってくるから本当に狡い。
「あんた、本当に変わんないよね」
「そうか」
「そうだよ」
「越前は最近また可愛くなって、俺は気が気じゃない」
「は、」
ああもう。
普段はこんなこと言わないじゃんか。冗談言うならちょっとは表情崩してよね。
「部長、おめでと。長生きしてよね」
「言わないんじゃなかったのか」
「仕方ないじゃん本当はプレゼントだってあるんだから」
ドイツに行っても九州に行っても、宇宙に行ったって、あんたは俺のこと考えててくれなきゃだめなんだからね。
また一つ年をとったあんたへ俺が最初にあげたのは、アメリカ仕込みの甘い甘い、それはそれは濃厚なキス。
そんなにやけた顔で怒っても意味無いよ、まったく。まだまだだね。
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