艱難、汝を玉にす(タカ+光)
全国大会準決勝後。病院にいた俺を訪れたのは、意外すぎる人物だった。
「ども」
「え、ざ、財前、くん?」
「見舞いっすわ」
押し付けるように渡された袋の中には善哉。
「みんなのところに行かなくていいのかい?」
「あー…平気っすわ」
そう言ってる間も財前くんの携帯は鳴りっぱなしで(バイブだけど)彼が探されてることは明らかだった。
「……あの、」
「なに?」
「お荷物とか言って、すみませんでした」
「…………」
「お荷物は、俺っすわ…」
そう言って頭を下げたきり、顔を上げてくれなくなってしまって。あぁ、泣いてるんだ。
「俺は何にも気にしてないよ。謝らなくて良い」
みんな驚いてたけど、彼が忍足じゃなくて千歳とダブルスを組むことになったのを俺は実は知っていた。
トイレの裏で、抱き合いながら泣いてる二人を見てしまったんだ。盗み聞きなんてするつもりは無かったんだけど。
忍足はひたすら財前くんに謝っていた。「決勝では俺とお前でダブルスや、絶対」、この言葉に返事は無かった。啜り泣く音が響いていた。
彼は結局、サーブしか打たせてもらえなくて。天才と呼ばれている彼にはとても酷なことだ。それに第一、どんなにテニスが上手くてもまだ14歳の子供で。壊れてしまいそうな彼を、どうすることも出来ない。
青学のお荷物。この言葉に傷つかなかったわけじゃない。でも分かってしまったから。きっと悪態でもつかないと支えられなかったんだよね、崩れそうな心を。
「…あのね、上手く言えるか分からないんだけど」
「…………」
「お荷物なんかじゃ、無いよ。君も、俺も」
過ごした時間とか、流した涙とか。無駄な時間なんて無い。みんながみんな、必要とされてる。お荷物なんて、いないんだよ。
「…ごめんなさい、ごめんなさい。ごめんなさい、ごめん、なさい…っ」
「はは、謝らないでよ」
見舞いに持ってきた善哉をひとつ渡すと、わんわん泣きながら食べてた。あぁ、自分の好物を持ってきてくれてたんだね。
「財前くん。もう行きな?みんな君を待ってるから、ね?」
「…………」
「みんな待ってるから、ちゃんと、君のこと。俺は嘘だけはつかないよ」
「…ありがとう、ございました」
今度寿司食べにおいで、うちは寿司屋だから。
そう言ったら瞳がちょっと輝いた。…うん、可愛いかも。四天のやつらがひたすらにこの子を可愛がるのも分かる。
一人になった病室、俺も貰った善哉をひとつ食べ…ようとしてやめた。越前と英二、桃あたりが取り合いするといけないからね、あとでみんなにあげよう。亜久津にもあげようかなぁ、助けてもらっちゃったしね。
思いの強さは、必ず力になるって信じてる。これ、テニスと空手から学んだこと。財前くん。きっと彼は強くなる。
周りを染め上げる夕日の光を見て、何故か俺が思い出したのは忍足のことだった。
次に会うときには、少しでいいから笑顔を見せてね。
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