I can not stay without YOU.(ちとくら)
小さい頃、犬を飼っていた。大きくて優しくて素直で可愛い、ゴールデンレトリバー。大好きやった。本間に。
そいつは、俺が学校行っとる間に、突然死んだ。帰ってきたら死んどった。俺はその事実が結構長いこと信じられんで、何処かにまだおる気がして。毎日毎日名前呼びながら街中捜した(まぁもちろん、見つかることなんて、無かったんやけど)。
この出来事は俺にとって想像以上に強烈やったらしく、今でもたまに夢に見るくらいや。
やからこそ、俺は目の前にあるものに執着する。
(…なんや、またこの夢、か…)
「白石?」
俺も成長せんなぁとか思いつつまだ起きぬけの頭の中を整理して、千歳を見つめる。あぁ俺、こいつんち泊まったんやったわ。
「ち、とせ…」
「どげんしたと?随分うなされとったばい」
「やな夢、みた」
千歳はふらふらふらふらしよる。俺は、いつか千歳が俺から離れて行く気がして、怖い。やって千歳、千歳も、大きくて優しくて素直で可愛い、やんか。
いつか一緒にいられんくなる日が来ることは分かっていた。やからこそ今だけは離れんように千歳の手をぎゅっと握る。こんくらいのわがままは、許して欲しい。千歳は俺のお姫さんはかわいかね、って言って俺の頭を撫でた。お姫さん言うな阿呆。でも頭撫でてくれたのは嬉しいから許したろう。
「なぁ白石、」
「なん?」
「俺、高校は九州戻るか、桔平追っかけて東京行くかで悩んどったと」
「……そうか」
「でもやめたばい」
「は?」
「無我の研究もまだ足りんし、大阪もちっといるばい。それに、白石おるし」
ニカッて俺の大好きな笑顔で千歳は笑った。
「高校卒業したら俺は大学は進まんと思うけん、向こうで就職するたい。白石は九州の大学受けなっせ。白石なら受かるたい、んで、一緒住も、俺んちで」
「お前、何言うとるん…」
「実は家族にはもう話してあるけん。俺の付き合っとる子は白石ち言う、世界一綺麗な男の子、て。最初は反対されたけんど、分かってもらえたばい。はは、やった」
「な、に」
「んで、金貯めて、一緒に外国行こ」
ニュースでやっとったばい、男同士でも結婚出来る国あるって。やけん白石、俺と結婚しよ?お嫁さんになって欲しか。
…って、阿呆かお前。何勝手に決めとんねん。ニュースなんて普段見んくせに、外国語も話せんくせに。
でも嬉しかった。死ぬほど嬉しかった。ちょっとだけ泣いてしまった。これからのことなんてまだよぉ分からんけど、未来も俺の隣にこいつはおってくれるやろなって漠然と思った。
「…画数、多いわ」
「?」
「……千歳蔵ノ介」
「!」
千歳はすっごく嬉しそうな顔で俺を抱きしめた。こいつは大きくて優しくて素直で可愛いけど、きっと俺の前からいなくなったりしないやろう。そう信じたい。てかいなくなったら承知せんぞ。
とりあえずこの大型犬は首輪を付けるわけにはいかないので、代わりに首筋にキスマークを付けておいた。
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