AtoZ(つまりはすべて)





思い返せば、俺は今まで本気の恋なんてしたことなかった。女と付き合ったことはあるけど別に好きやなかったし。やけど今回は正真正銘本気の恋で、愛したくて愛されたくて。せやからこそいろんな不安が付き纏う。
俺の全ては、受け入れてもらえるのか?


実際、財前光という俺は、劣等感でいっぱいやった。みんなには絶対言えんけど。自尊心なんて全く無くて、ネガティブな思考しか持てんかった。

生意気やら毒舌やら言われとるけど、本間は素直になれんで意地張って、餓鬼なだけや。作曲がどうのとか言っとるけどPCオタクなだけやし、小学生のときチャリンコこけて切って縫った跡、醜く腿に残っとるし。身長もちっさいし、ついでにアレもちっさいし。女みたいな声出るし、抑えれんし。あー最悪。

それに引き換え、謙也さんは明るくてかっこよくて敵わんわ。



謙也さんは俺の悪態の全てが素直になれないことからやって分かってくれてた。PCオタクなところをすごいって言うてくれた。腿の傷痕を可哀相やって撫でた。背が低いことを抱きしめやすいと言った。ちっさいアレを綺麗やと、女みたいな声を可愛いと言った。

全てを受け入れてもらえる、それは分かっとるはずやのに。不安はいつも心にあった。俺は、謙也さんを、満足させられてる?


「謙也さん、謙也さんは俺にしてほしいことありますか?」
「は、どしたん急に」
「はよ言うてください」
「んー…あ、ひざ枕してほしいな!」




……仕方ないからしてやりましたよ、ひざ枕。気持ちよさそーな顔しながらこっち向いて「光真っ赤、可愛い」て言った。恥ずかしい人や……


「他にもして欲しいことあんのやけど」
「…えぇですよ、言うてください」
「ぎゅーってさせて」
「……はい(そんなん許可とらんでもえぇのに…)」


落ち着く。謙也さんが俺の肩に顔埋めて、少し痛んだ金髪が耳に触れて気持ち良い。



「まだあるんやけど、ええ?」
「えぇですよ。全部言うてください」
「じゃあ、ずっと傍におって」
「え…」
「俺を好きでいて。頑張りすぎんで。無理に変わろうとせんで。そのままの光でいて」
「謙也さん…」
「たまには俺を信じてや」


謙也さんの真剣な目を見て、俺は今までなんて馬鹿なこと考えとったんやろって思った。もう尻の穴まで見られとるっちゅーのに、何を今更気にしとんねん。

「謙也さん、ごめんなさい…」
「今光が言わなあかんのはごめんなさい、ちゃうやろ?」
「……好き」

途端に謙也さんが顔を紅くしたので不思議そうに見とったら「いや、俺は『ありがとう』言うてくれるかなぁ思ったんやけど…嬉し、好き来るとは思わんかった」って。…あかん、はずい!



「くっ……!も、もう!今ので謙也さんのお願い聞いてあげるタイム終わりっ」
「えー…」
「その代わり、しゃーないんで今言うたやつは叶えてやりますわ」
「はは、光、好き」


そこはありがとう言うところやろって怒ったら、謙也さんは光の真似しただけやって言うた。


今のまま代わらないでいいのなら、背伸びしなくていいのなら。傍にいてあげることなんて、すっごく簡単。

もう、ごめんねもありがとうも言わないよ。好きもたまにしか言わんけどな、いつも思ってるからそれは忘れんでね。



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