キラリ、一滴。





謙也さんが泣いた。

俺は謙也さんの恋人で、謙也さんがめちゃくちゃ好きで。謙也さんもきっと俺が好きで。でも俺のことを好きなのは謙也さんだけやなかったみたいで。


千歳先輩は、二人きりの部室で、あの朗らかな笑顔で、「俺は光くんのこと好いとるよ」って言うた。まぁなんとなく好意を持たれとる気はしとったけど。俺は「ありがとう、ございます」って返事した。「でも、俺にはこれからもずっと謙也くんだけです」って。

それを聞いた千歳先輩は俺に触れるだけのキスをした。そのあとぎゅーってして、耳元で「光くんごめん、ありがと。幸せなってね」って言うた。まさかキスされるとは思わんくてめっちゃびっくりした。やけどそれ以上何もする気もなさそうやったし、千歳先輩が優しい人やって、俺の幸せを本気で願ってくれとるのは分かっとるから「おおきに」って笑顔を作った。


千歳先輩が出てって初めて、それを謙也さんが見とることに気付いた。


謙也さんは無言で俺の前に来て、俺のくちびるを自分のジャージの裾で拭く。ゴシゴシゴシゴシ、痛いくらいに拭く。
散々それをしとると思ったら、そのまま崩れるように座り込んで、ひたすらに泣いた。



謙也さんはすごく表情が豊かで、いつもコロコロ顔が変わる。笑ったり怒ったり、本間に忙しい人や。

でも、泣くことだけはしやんかった。足に怪我をして走れんくなったときも、俺と大喧嘩したときも。歯を食いしばって、必死に涙を堪えた。「俺は光を守らなあかんから、泣いたらあかんねん!」なんて言われたときは何をふざけたことを、って正直思ったけど、今思うと謙也さんは本気やったんかもしれん。



その謙也さんが今、俺の前で泣いている。わんわんと声をあげることもせず、涙を拭うこともしない。顔ぐっちゃぐちゃ。この人は本間に泣くのが下手くそや。全然似合わへん。ボロボロボロボロ大粒の涙が零れ続ける。

「キス、されただけやで。なんもない、俺が好きなんは謙也さんだけや」
一部始終を見とったらしい謙也さんは分かっとる、と言わんばかりに頭を縦に振る。涙は止まらへん。


謙也さんは本間に悲しそうで、なんや耐え切れんくなっておもいっきし抱き着いた。それでも謙也さんはいつものように背中に手を回してはくれへん。ひたすら、泣く。反応が無いもんやから思わず顔をあげると、顔に謙也さんの涙がぼたぼた落ちて来て垂れる。しょっぱい。俺が泣いとるみたいやんけー。


「ひっ、ぐ…ぅえ、か…ぁ、るぅっ…うぅ…」
「謙也さん、何?ごめんやけどもう一回」

何か言おうとしたみたいやけど、しゃくり上げとるもんで聞きとれん。やからもう一回聞いたら謙也さんは余計に泣いてしもた。はぁ…俺はそんなに信用出来んか阿保!

ぶっさいくな顔して(嘘、本間は可愛い)泣き続ける謙也さんに腹立って来た!顔を両手で挟んで目合わせて、今まで出したことないようなでっっかい声で叫ぶ。



「俺が好きなのはあんただけやっちゅーねん!一生、死ぬまで、もう謙也さんしか見えへん!!いい加減分かれ阿保!!!」



謙也さんは一瞬だけ泣き止んで、ずーっとえぐえぐしとったくせに、わぁぁぁーん!って泣き始めた。腕は俺の背中にガッチリ回して。そうやって泣いてくれた方がまだええわ。笑っとってくれればもっとええけど。













「…疲れ、た……頭、ガンガンする…」
目腫らして鼻も真っ赤で鼻啜りながら体ぐてーって壁に預ける謙也さん。本間にしんどそうでめっちゃぐったりしとる。そりゃそんだけ泣けばそうなるわ。

「謙也さん、ポカリ」
「あー…おおきに。…光、ごめん」
右手は缶ジュースで目冷やして、左手は俺の手を掴んで。


「今日あんま良いことなかってん。いろいろへこんどって、そしたら光は千歳にキスされとるし」
「あれは千歳先輩が…」
「分かっとるよ、せやけど俺、光が離れてったらどないしようって思って、俺以外の奴が光にキスして、耐えられへんかった…餓鬼やろ。せやけど光が好きや言うてくれて嬉しくって……もうあかんなぁ、俺」


額にキスして「お願いやから俺から離れんでな」って言うてきた謙也さんがどうしようもなく愛しくなって、「不安にさせて勘忍っすわ」って俺も謙也さんの額にキスしてあげた。


俺のために泣いてくれたんが実はむっちゃ嬉しくて。一滴も零さずに食べちゃいたかったな、なんて変態ちっくなことも考えてみたりする。


でもやっぱり、笑ってて欲しい。キラキラな涙も綺麗だけど、キラキラな笑顔はもっともっと綺麗だから。



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