Breaking Final Distance





あー暑い。暑いと余計に疲れるわ。ふと目をやると部室の机のに目薬が置きっぱなしやった。多分ユウジ先輩の忘れ物やろう。ちょっと注してみる。……うっわ、これむちゃくちゃ目にくる。ユウジ先輩よぉこんなん毎日注しとるな。あかん目痛なってきたし。

「なんや財前…てうわ!お前どしたん?!」
「謙也さん」
「大丈夫か?!」

どうやら謙也さんは俺が泣いとるっちゅー勘違いをしたらしい。なんてベタな。なんて阿保な。

「謙也さん、違うんすよこれは…」
「いやわかった!辛いことは無理して口にせんでええ!」

俺の言うことを全然聞いてくれへん謙也さんは俺を無理矢理上のTシャツだけ着替えさせた(ユニフォームは流石にまずいと思ったんやろ)。そして何故か謙也さんが持っていたキャップを被らされて「これで泣いても大丈夫やで」て笑って俺を駐輪場まで連れてった。

「辛いときは泣いたらええ、そのあとは笑えばええねん」なんて言われて自転車の後ろに乗せられる。…もう引くに引けへんやんか。


謙也さんは俺を乗せとるにもかかわらずめっちゃ速かった。さすがスピードスター。後ろに乗って背中を見ると謙也さんの背中のでかさを思い知らされる。俺と身長10センチ違うんやもんなぁ。なんかむかつく。

「謙也さん、どこ行きはるんですかー」
「なんやてー?風の音でよう聞こえんー」
「どーこー行ーきーはーるーんーでーすーかー!」

キュッ ドン
謙也さんの背中に顔ぶつけた。まぁ顔と言うかキャップを被らされとるで正しく言うとキャップのつばのとこが謙也さんの背中に刺さった。痛がる謙也さん。ちゅーか急に止まるな!

「今から甘味処行って善哉食お、んでそのあとバッティングセンター行こうや。カラオケもええけどふたりじゃ盛り上がりにかけるよなぁ…そや、明日練習のあと皆で行こか!うんそーしよ!」
全力で俺を励まそうとする謙也さんに若干申し訳なくなりつつも、なんとなく嬉しかった。

善哉はめちゃ美味かった。しかも謙也さんが奢ってくれた。バッティングセンター代も謙也さんが払ってくれた。流石に申し訳なくて自分で払うと言ったが拒否られたのでお言葉に甘えることにした。

謙也さんは今日ずっと笑っていた。多分いつも以上に笑っていた。



結局日が暮れるまで遊んで。謙也さんはうちまで送ってくれた。

「謙也さん。今日、ありがとうございました」
「おう!元気出たか?」
「はぁ、まぁ」
今更本当のことなん言えん。罪悪感。


「なぁ、謙也さん。どうして俺にここまでしてくれたんすか。」
本当は知っとった。謙也さんが今月金欠やって騒いどったことも、甘いものはそんなに好きじゃないことも。


「そりゃ、好きな奴にはいつも笑っとって欲しいしな!」

え。と俺が思うよりも早く謙也さんは真っ赤になってやっちゃった!みたいな顔して口をぱくぱくさせとった(つられて俺まで赤くなる)。

「い、今の無し!!」
謙也さんは猛スピードで自転車を漕いでった。と、思ったら帰ってきた。

「や、やっぱり、有りにしたって!」




謙也さんって俺のこと好きやったんや、なんやはずい。しかも制服学校に置きっぱなしやし。あかん俺テンパっとるわ。でも悪い気は全然しない。とりあえずメールを送ろう。内容は、

キャップ、明日返しますわ

、でいいか。…あ、あとやっぱりそれから。


本当にカラオケ行くんなら二人のがいいです。


今日一日で謙也さんのことをもっと知りたくなってまった。人の思いやりをこんなにも嬉しく思ったのは、初めてやったから。それでもし俺が謙也さんのこと好きになったら、まぁ今度は俺から告ってやらんこともない。


今日あの人がくれた優しさを、明日は俺が返そうかな。



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