人に優しく君には甘く





9月、新学期、始業式。
今年もなかなか良い夏やった。全国大会で強い奴とテニスが出来て、まさに完璧で絶頂な夏休みやった。それでも部活を引退してまうとやっぱり寂しくなるもので、学校でみんなに会いたいなぁ、なんて珍しくセンチメンタルなことを考えたりもした。

ただ、始業式の校長の話はやっぱり好かん。全部が全部おもろないってわけやないけど、やっぱり話長いわ。体育館が涼しかったら耐えれるんやけど暑いし、立ちっぱなしはきつい。

ほら、目の前のひよこ頭なんかふらふらふらふらしよる。あかんこいつ、そろそろ倒れるぞ、


そんなこと考えとったらひよこ頭、もといクラスメイト兼部活仲間兼一応親友の忍足謙也はへにゃんってしゃがみ込んだ。…はぁ、またかいな。俺は手を挙げて近くにおる先生を呼んだ。


「忍足、大丈夫か?どないした?」
「あー大丈夫です、こいつ多分貧血ですわ」


ごっつい体育教諭の肩借りて保健室に向かう阿保謙也。全く、あいつ普段うるさくてしゃーないっちゅーのに、なんやねん貧血持ちって。ギャップやな、悪い意味での。

そんな阿保を、可愛い顔歪ませて半泣きで見つめるのは、俺らの後輩兼テニス部新部長兼あの阿保の恋人の財前光。財前は俺に気付くと口パクで「ぶ ち ょ う 、 ど う し よ う」と言った。やから俺は「だ い じ ょ う ぶ」と返す。

夏の練習中もこんなことがあったから、財前は体育館を飛び出すような真似はせず、俺の言葉を信じてそこにいてくれた。しっかし健気やなぁ、財前。俺に至ってはもう呆れとるっちゅーの。




「財前おいで、謙也んとこ行こ」
「はい…あの、部長…謙也さん…」
「だーいじょうぶやって。財前は俺のこと信用出来んの?ほら、行くで」


いつも生意気で毒舌な財前も謙也が絡むと途端に脆くなる。俺がいくら大丈夫やって言っても不安顔は相変わらずや。

正直言うと、俺の財前贔屓は半端やないと思う。財前が実はええ子やからとかテニスが上手いからとか、去年の俺と境遇が似てるからとかいろんな理由もあって、数多くの後輩の中でも特別可愛がってきた。財前もよう懐いてくれとる。せやからもう本間もんの弟みたいな感覚でおる。
やからこそ、謙也にはしっかりしてもらわな困るんや。財前泣かすな馬鹿謙也!

なんて俺の考えも知らず、当の本人はベットの上でへらっと笑った。


「やー白石、光。心配かけてすまんかったなぁ」
「心配なんしとらんわ阿保。お前もうちょいしっかりせえ、貧血ってそれでも医者の息子か。レバーを食いなさいレバーを」
「きっついなぁ白石ー」


すると今まで黙っとった財前は、謙也のでかめの手を自分のちっちゃめな手で包んだ。そこに涙がぼたぼた落ちる。

「ひ、ひかる!?どした?!どっか痛いか?」
「ぅ〜〜、謙也さん、の阿保……ひっく、よ、よかっ、た…」
「はぁ…おいそこのひよこ頭、俺は本間にお前の心配なんちっともしてへんぞ。俺はこんな阿保なお前のために心痛める財前が可愛くて可哀相やから言うとるんじゃボケ」
「……すまん」
「謝る相手違うやろこのヘタレ」
「ひかる、ごめんなぁ」


財前は泣きながら、ちゃんと体調悪うなったら自分で対処せなあかんのですよ、とか、ご飯食べなあきませんよ、とか、ちゃんと水分採ってください、とかをつっかえながら言うた。謙也はそのひとつひとつに相槌を打っとる。


全く。こんな世話のやける子供たち持って、くらら大変です!
……あぁ俺は邪魔ですかそうですか。こんだけ協力してやったっちゅーのに糞謙也後で殺す。はいはい俺は教室帰りますよーだ。


あぁ…俺も恋とかしたいなぁ。



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