蒲公英色の世界の中で、君を探すよ(光+ちとくらパラレル)



※千歳が死んじゃってます。苦手な方ご注意ください。





















千歳先輩が死んだ。理由は交通事故。突っ込んできた車から避けきれんかったんやと。白石部長と珍しく喧嘩して、仲直りするために部長ん家に行く途中やったらしい。

みんな泣いた。顔をぐちゃぐちゃにしてわんわん泣いた。特に白石部長は酷くて、葬式が終わった今でも青白い顔でふらふらしよる。目の下のクマも酷く、かなりやつれたようやった。

俺は、泣けんかった。やって現実味が無い。千歳先輩が死んだなんて、実感が沸かない。

やって俺には、千歳先輩が見えとるんやもん。



「千歳先輩…何しとるんですか?あんた、死んだんじゃ…」

千歳先輩を見つけたときは本間にびっくりした。先輩は『光!俺が見えるとね!』って抱き着いてきたけどその手は俺に触れることなくすりぬけた。どうやら俺にしか見えんらしい。霊感あるんかな。

それから何日か千歳先輩は俺の部屋におる。空飛んで壁すりぬけて気付いたらくつろいどる。

「千歳先輩、俺の部屋やなくて白石部長んとこ行けばえぇやないですか」
『行ったばい。…でも、泣いて泣いて、口にしたもんは吐くし、見てられんかった』
「………すんません」

千歳先輩は『光が気にすることじゃなかよ』って言って俺の頭を撫でようとして、やめた。触れられないから。


『光、俺このまま一生成仏出来んかもしれんたい』
「…………」
『白石のことが気掛かりで、謝りたくて、触りたくて、敵わんばい』
「………そっすか」

千歳先輩は本間に辛そうで、何て言葉をかければえぇのか分からんかった。やからと言って俺は抱きしめてあげることも出来ん。ちょっとだけやけど、千歳先輩の気持ちが分かった気がした。








次の日の朝。俺は早くに朝練に行った。一晩かけて俺が出来ることを考えたから。

「部長、おはようございます」
「あぁ、財前。おはようさん」

部室には俺と部長の二人だけ。あ。あと、幽霊さんが一人。

「部長…千歳先輩に会いたいですか?」
「……せやね」
「会いたいですか?」
「そりゃ、会えるもんならな」
「伝えたいことはありますか?いっぱいありますか?」
「…………ある。本間にいっぱい、ある」

白石部長は泣きだした。もうあんた涙なん出んやろってくらいげっそりした顔しとるのに、それでも部長の目からは止まることなく涙が溢れていた。やつれてもクマがひどくても、やっぱり部長の瞳は綺麗。


「……っな、なんで俺を残して死んだんやって……ぅ、馬鹿野郎って言いたい、」
「はい」
「あと…ごめんねって…ひっ、ごめんねって、言わな、あかん」
「はい」
「それに…愛してるって…愛してるって、いっぱい言いたい……言いたいよぉ…千歳ぇえ…」

わんわん泣き出した白石部長に千歳先輩は叫ぶ。聞こえることはないはずの心の声を、ただ、俺だけが聞いていた。


『白石!勝手に死んでごめん…愛しとる!こんなことになるならふらふらなんかせんでずっと白石の傍におればよかった……好き、ほんに愛しとるよ、白石、白石…!』


あぁ、幽霊も泣けるんやな。せやけど千歳先輩は白石部長に触れることすら許されない。声やって届かない。本間に阿保や、千歳先輩…


俺は千歳先輩の代わりに白石部長を抱きしめた。千歳先輩の顔が苦しそうに歪む。


「千歳先輩!早く俺ん中入って!」
「ざい、ぜん…?」
『え、何を言っとると…?そんなこと…』
「ほら、よくあるやん!幽霊が人間の体ん中入ったり」
『そんなん…』
「俺やって本間に出来るかなんて知らんわ!でもやってみな分からんやろ!白石部長このままほっとくなんてことすんのは俺が許さん!!」


「財前、財前には、千歳が見えるんか…?」


千歳先輩は白石部長の声を聞いて、決心ついたみたいに俺の額に自分の額をくっつけてきた。…なんやろ、体すっごい重たい、変な感じする…。


(白石!)


あぁ。千歳先輩、ちゃんと俺の中に入ってこれたんや。俺の魂は追い出されてまうかと思っとったけどそんなことはなくて、ひとつの体に千歳先輩と一緒に入ってた。やから千歳先輩の考えとることが手にとるように分かる。これが本間の一心同体少女隊やろ。とか言うてみる。こんだけ協力してやったんやから、外見と声が財前光なことは許してや。


「白石…ごめん。ほんにごめんなぁ」
「ち…とせ……」
「白石、白石はひとりやないよ。テニス部のみんなもおる。みんな心配しとるよ、お願いやけんご飯食べてな」
「千歳の阿保…俺のこと置いてくなや…」
「置いてくんやなかよ、先に行ってちゃんと待っとる。今度はふらふらせんで待っとるよ」
「当たり前やわ…千歳、俺弱くってごめんな」
「よかよ。俺はそんな白石が好きたい」
「なぁ千歳、好きや。愛してる…っ」
「俺も…俺も愛しとるよ」



「好き」と「愛してる」を何度も繰り返す二人を見とる(っちゅー表現でえぇんやろか)うちに体が軽くなってきて、頭が冴えてきた。天井を見上げると千歳先輩がおる。俺は白石部長に抱きしめられたままでなんでか声が出ん。


(光、ありがと)

千歳先輩はキラキラ光って、消えて、見えなくなった。


あぁ、千歳先輩は逝ってしまった。白石部長に言わなきゃ、もうこの体には部長の大好きな千歳先輩やなくて俺しか入っとらんって言わなきゃ。千歳先輩ひどいっすわ、こんなこと俺に言わすなんて。
すると部長は涙を拭って、綺麗な顔で言った。


「ありがとう、財前」



白石部長は千歳先輩が逝ってまったのが分かったんや。
俺はその時、初めて泣いた。白石部長はもう泣かんかった。







昨日の夜千歳先輩に言われたことが頭の中でぐるぐる廻る。

「なぁ光。俺が言うのもなんやけど、好きな奴よりも先に死ぬのは絶対いかんよ」
「はぁ、」
「あと、白石のこと、これからみんなで支えてやって欲しか」
「…しゃーないっすね。その代わり俺がいつかそっち逝ったとき善哉奢ってくださいね」
「はは、分かった。待っとる」



千歳先輩はもうおらんけど、千歳先輩は俺らと一緒に確かにここにおった。それだけは絶対に変わらんから。

今度白石部長と墓参りに行こう。ジブリのDVDでも持ってったら喜ぶかな。
あ、あと。毎年お盆くらいは出て来てくれると嬉しい。


俺は絶対、言われた通り好きな人よりも1秒でも長く生きる。それに白石部長のことも俺なりにちゃんと支えますから、安心して下さい。

千歳先輩、いっぱい優しさを教えてくれてありがとう。



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