INDIGO
「小春ーっ!今日も小春のために頑張って弁当作ってきたでー!」
「あらユウくん、おおきに!」
謙也さんが小さく「ええなぁ…」て呟いたのを俺は聞き逃さなかった。
「謙也さん、俺は料理出来へんですよ」
「なっ…阿保!そんなんいらんわ!あ、いや…いらんことないけどな、そりゃちょっとは欲しいけど…いや、違くて、」
謙也さんはきっと俺の手作り弁当が欲しいんやろな。うわ、どないしよ。謙也さんの欲しがるものならなんでも与えたい。でも料理なんてしたこと無い。
…頑張ってみるか。俺って一途やな。
*
自分で自分が嫌になる。本間俺有り得ん。こんなことになるなら義姉さんに素直に相談してからやればよかった。いやでもはずいし。
頑張ったつもりやったけど、卵焼きとかありとあらゆるおかずを失敗して俺が準備出来たのはおにぎりだけやった。しかも不格好。謙也さんは大食いやから数だけはいっぱい作った。
紙袋におにぎりをいっぱい詰めて一応持ってく。でもこんなん出せん、恋人からのお弁当がおにぎりだけってどないやねん。しかも紙袋に詰めるってお前。俺なら絶対嫌やし。
「ひっかるー!飯食おうやー!」
2年の教室にも違和感無く現れた謙也さんは高らかに俺を呼んだ。謙也さんの手には焼きそばパンが握られとって、あぁもう渡せへん、と思った。おにぎりたちは持たずにいつものように謙也さんと屋上に向かう。
「小春ー今日も俺の愛いっぱいの弁当作って来たでー!」
「もう!ユウくんってば優しいんやから!」
またやっとる。謙也さんもくぎづけやし。くそ、俺もユウジ先輩みたいに器用やったらよかった。
「なぁ光」
「なんですか」
「あのさ、俺この前いらんとか欲しいとかぐだぐた言うたけどさ、やっぱりいつか光に弁当作って欲しいんよ」
「…俺料理なん出来ん言うたやないですか」
「ええんよ。どんなに不格好でも下手くそでも。光が俺のこと考えて作ってくれたってだけで無茶苦茶美味いんやから」
せやからまた気ぃ向いたら頼むわ、て謙也さんが言い終わる前に俺は走り出した。教室に入って乱暴に紙袋を引っつかみ、屋上に戻る。それで、ぽかんとしとる謙也さんにそれを突き付けるんや。
「まずいやろうし不格好やけど」
「ひ、光…これ…」
「握り飯しか入っとらんですよ。あ、でも本間はそんだけのつもりやなかったんやで。ちょっと予定狂っただけですから」
「これ、全部俺のために作ったん?」
「…はぁ、まぁ一応」
「………めちゃくちゃ嬉しい。光、本間にありがとう」
謙也さんが本当に嬉しそうに笑うから、恥ずかしいの我慢して持ってきてよかった、て思った。謙也さんは俺の不細工なおにぎりを「美味い、本間に美味い!今まで食った飯の中で一番美味い!」て言いながら本間に嬉しそうに食うから、俺は幸せな気持ちになった。
「俺は光みたいなええ子ぉが恋人で本間に幸せもんやなぁ!」
「…あんたそれ、無自覚っすか」
「え?」
「ナンデモナイデス」
それは俺の台詞や。謙也さんみたいな人、探したってなかなかおらんわ。
口をもぐもぐさせた謙也さんがそれを飲み込んだら、俺も素直に言ってみようか。
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