瞳に映るものが真実で、僕らに言葉は必要なかった(謙光パラレル)




※謙也高三、光高二
・謙也さんは話をすることが出来ません












「そこの兄ちゃん、今俺のこと見とったやろ」
「見てへんです」
「いやーかっこええピアスしとるなぁ。さぞかし金持っとんのやろなぁ」
「持っとらんです」

俺はなんでこう悪そうな奴に絡まれるんやろか。ピアスか。ピアスがいかんのか。それにしても今回の奴はしつこい。もう諦めえや。

そう思っとった瞬間、その男は崩れ落ちた。殴られたとかやないで、なんと膝かっくん。不覚にも笑ってもた。膝かっくんした犯人の明るい髪色の男に手を引かれ、俺はそいつから逃げることが出来た。



「本間にありがとうございました」
金髪で俺より背の高いその人は、眩しい笑顔を見せた。
「あの、お礼させてください」
途端に慌てた顔をして口をぱくぱくさせている。…もしかして、



「あの、すみません。…もしかして、喋られへんのですか?」
その人は困ったように笑って頷いた。

「……やっぱり俺お礼したいっすわ。よかったら飯食いに行きましょ、俺奢るし。ね?」
やって、声出ぇへんのに見ず知らずの俺を助けようとしてくれてんで?めちゃめちゃえぇ人やん。やっぱりきちんとお礼したい(自分はやっぱりA型やなぁって思う)。俺がそう言うと今度は嬉しそうに笑って頷いてくれた。





店に移動して席に座ると彼はノートとペンを取り出す。

「えっと…名前、聞いてもいいすか?」
『忍足謙也 高3。謙也でええで!』
あ、思ったより字上手いかも。しかも書くの速いなぁ。

「謙也さんね。…俺は財前光。あんたの1個下。」
『光な!よろしゅう!』
「本間、今日は助かりましたわ」
『そんなん全然ええって!それより光、テニスバック持っとるってことはテニス部なん?』
「はい。上が最近引退したんで一応部長っすよ」
『凄いなぁ!俺も前までテニスしとったんやで。事故して声出んようになるまではな』


昔は声、出とったんや。
『足には自信あんで!「浪速のスピードスター」言うてな、』
「ぶっ」
『あ!笑うなや!』
「…もうテニスはせぇへんのですか?」
『おん。俺みたいな声が出んのとやりたい奴おらんやろ。ダブルスなん以っての外やしな』

それから謙也さんと俺はいろんな話をした。謙也さんは表情がめっちゃ豊かで、今にも声が聞こえてきそうやった。


「謙也さんの彼女は、きっと幸せですね。優しいし、大事にしてもらえるやろ」
『彼女なんおらんわ!』
「嘘や、意外」
『声が出ん彼氏なん、彼女が可哀相やろ』
「……なぁ謙也さん、声が出んからってなんでも諦めるん?」


謙也さんは優しいしかっこえぇし。それなのに声が出ぇへんからって恋もテニスも諦めて。そんなんずるい。てかもったいない。俺なんかに言われたないかもしれんけど。俺はそんな感じのことを言ったと思う(ちょっと照れた)。

『せやな。おおきに。』
「いや…生意気言ってすみません」
『そんなこと言ってくれた人初めてや、えらい嬉しい!』
「…じゃあ今度、テニスしましょ」
謙也さんは本間に嬉しそうに笑った。


『俺もな、自分は声が出んのを逃げにしとる思ってん。せやから逃げんように、最近手話始めた』
「本間に?…なら俺もやろかな、したらもっと速く謙也さんが何言うとるか分かるしな」


そう言うたら謙也さんは泣き出した。焦ってもたわ。震える字で書いた。
『むちゃ嬉しい。こうなってからみんな自然と離れてしもてん。せやから光がそう言ってくれて本間嬉しい。ひかる、ありがとう』


元々自分は結構ドライで他人に深入りするタイプやなかった。せやけど謙也さんはなんかほっとけんかった。力になりたかった。偽善なんかやなくて。
「言うとくけど、同情しとるんちゃいますよ。俺があんたと話したいんや。俺の意思やで」
謙也さんは『おおきに!』てノート一杯にでっかく書いた。




その日から俺らは毎日メールをした。暇があれば飯を食いに行った。俺も少しずつ手話を覚えた。

テニスもした。謙也さんのテニスは、謙也さんみたいやった。太陽のような風のような。むちゃ楽しかった。
「謙也さん、俺めちゃめちゃ楽しいっすわ」

謙也さんは人差指で鼻を指す。親指と人差し指をのばしてのどにあて、指を閉じて下げる。両手を折り曲げて、指の指先を胸に向け、上下に動かした。
(「俺も楽しい」、か。よし、大分覚えた)

俺は簡単な手話ならもう分かるようになった。会話にはまだノートとペンは欠かせんけど。人のためにこんな風に努力したのは初めてやった。


「(ひかる)」
「はい」
最近では「ひかる」なら口の動きも分かるようになった。あと「うん」とか。

一緒に帰りながら、謙也さんは携帯に文章を打って俺に見せてくる。


『なぁ、怒らんと聞いてくれる?』
「はぁ」
『久々にテニスできて楽しかった』
「楽しかったならよかったですわ」
『喋られへん俺と一緒におってくれておおきに』
「…せやから喋れんのは気にしとらん言うとるでしょうに」
『怒らんって言ったのに…』

「謙也さんが喋れんのは俺は気にしとらんです。普通に話せるし、それに謙也さんは顔に出るから言いたいことなんとなく分かるねん」
『じゃあ、今俺が何言いたいか分かる?』


謙也さんの顔を見るとそれはそれは真っ赤で。

「あ、俺のことが好き、とか?」

こう言うと更に真っ赤に染まって口パクパクさせとった。なんでわかんねん?!てとこやな。あかんこの人本間にヘタレや。…なんや、俺だけやなかったんやね。

「俺がなんでこんなに謙也さんに構うか分かります?」
「…………?」
「謙也さんが好きやからですよ」
「…………!」
「男でも声が出んでも、俺は謙也さんが好きです。なぁ、謙也さんは?」


謙也さんは人差指で鼻を指す。親指と人差し指をのばしてのどにあて、指を閉じて下げる。それから、右手の親指・人差指を少し下げながらくっつけた。

(「俺も、好き」)







『ひかる』
「はい」
『俺直接好きって言ってやれんけど、光のことずっと大事にするから!』
「…それはおおきに」
『それに気持ちの伝え方って口に出すことだけやないしな』
「え」


ちゅ


「………!謙也さん!」
謙也さんが笑う。俺も笑える。俺達の間に言葉は必要なかった。


例えばキスとか抱きしめたりとか、愛の伝え方はいっぱいあるから。
ひとつずつ、謙也さんに伝えていきたい。


愛は目に見えない。俺達の場合、音にもならないけど。
それでもこの人となら信じていけると思った。

これからも、ずっと。



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