君がいるから、世界は廻る。(蔵光)
部員のみんなをまとめなあかんから人望が必要。テニスも誰よりも上手くなきゃあかんから人一倍練習が必要。頭だって良くなきゃあかんから勉強だってせなあかん。これがみんなが憧れる完璧人間、白石蔵ノ介の全てやった。
実際人望なんかは謙也のが持っとるしテニスは特徴が無いといったらそれで終いや。頭は小春のがええしな。俺のこと羨ましがる奴らは努力が足りひんねん。それで勝手にやっかまれて色々言われたらたまらんわ。
(はぁ……だる)
俺かてやっぱり人間やし本間にしんどいときもある。自分で言うのもなんやけど色々背負っとるしな。でも弱音は吐かん。俺は完璧なんやからこんなんに負けん。絶対に負けたない。
「白石ー俺ら帰るわー!」
「おぉ、気をつけて帰りやー。お疲れさーん」
あとは部誌書いて鍵かけて職員室に鍵戻して…こんな少しの行動にも手ぇ抜けん自分のちっぽけなプライドが嫌になる。
(…頭、ぐらぐらする。)
−ガチャ
「お疲れっす」
「おぉ財前、自主練か?」
財前光。少し生意気な俺の恋人。珍しいな、まだ残っとったんか。危ない気付かんと鍵かけてまうとこやったわ。あーせっかく二人やのに俺今日余裕無い。話題とか出てこん。俺は黙々と部誌を書くしか出来んかった。財前は財前で黙々と着替えとる。
「財前、着替えたなら帰ってええよ?」
「…別に、俺が勝手に残っとるだけですわ」
待っとってくれとるん?おおきに。て言おうとしとったのに、その前に財前に後ろから抱き着かれた。
「無理に笑わんでもえぇんです。顔、引き攣っとりますよ」
「ざいぜ、」
「部長は良い顔しすぎなんすわ。多少手抜かな」
「…やって、手の抜き方が分からんのやもん」
「謙也さんに部誌書かせるとか謙也さんに鍵当番任せるとか色々あるでしょうに」
「お前なぁ〜」
「あ。そうそれ、部長の笑顔。俺、大好きっすわ」
財前は可愛くてツンツンしとってたまにデレデレする俺の愛しい恋人。世界で一番守ってやりたい愛しい愛しい恋人。
やのに、たまにどうしようもなく守られとる気分にさしてくれる。子悪魔ちゃんやなぁこいつ。
「…気持ちい……」
「部長ちょっと熱あるんちゃう?そんな高くはなさそうやけど。ほら、早く帰るで。今日は俺が送ったりますわ」
財前の冷たい手が俺の額を冷やす。片方は俺の毒手を握る。
(あぁ、財前には毒手は効かんなぁ。)
「財前はたまにすごい男前やなぁ〜」
「たまにちゃうし」
時々すっごく年下に見えて、時々すっごく大人に見える。我が儘を言っとるようで実はすごく空気が読めて、要領が良いように見えて実はめちゃめちゃ悪い。そんな可愛い財前がおるから、俺は頑張れとるのかもしれんなぁ。
「財前〜今日俺んち来ん〜?」
「今日はあかん。あんたははよ寝ろ」
「ちぇっ」
「…明日ならえぇですよ」
今日もいっぱいありがとう。明日はいっぱいお礼せなあかんなぁ。
冷たい財前の手と今日はいつもより熱い俺の手。繋がれてるうちに気付いたら同じ温度になっとった。
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