一瞬の永遠




※未来捏造ご注意!












「光ー、結んでー」
「謙也さん、あんたこんなんも出来ひんのですか」

俺はブツブツ言いながら今日も謙也さんのネクタイを結ぶ。本間不器用な人や、確か初えっちのときもゴムが付けれんくて俺がやってあげた覚えがある。

俺は大学4年生、謙也さんは社会人1年生。お互い忙しい時を過ごしとる。でも会えなくて寂しいとかそんな問題は全く無い。だって俺ら一緒に住んどるもん。

「ほら、出来た。はよせんと遅刻しますよ」
「おおきに!ほな行ってきますっ」

謙也さんは学生の俺よりも早く家を出て行く。せやけど一緒に朝飯食べたくて同じ時間に起きてやる俺は本間に健気やと思うわ。いつも玄関まで見送ってやるんやけど謙也さんはしょっちゅう「行ってきますのちゅー」を求めてくる。してやらんけど。いやたまーにしてやるけど。表札に謙也さんの癖のある字で書かれた「忍足謙也・光」ってゆう、まるで同棲しているカップルのような(いや、そうなんやけど)アクションに頬が緩む。


謙也さんのお母さんは優しい人や。でも、謙也さんのお父さんは、厳しい人。謙也さんは医者にはなりたくないってことと、男である俺と付き合ってることを親父さんに告白したとき勘当された(俺も一緒に話を聞きに行ったんやけどな、)。男と付き合うとるなんてお前は忍足家の汚点や、自分がしとること分かっとんのか、侑士くん見習え、って(侑士くんやってホモやんか)。

俺と付き合ってることを汚点と言われた。俺が謙也くんを汚しているのか、と傷つく前に謙也さんは親父さんをぶん殴っとった。

「俺は汚点でもなんでもええ、光のことだけわ何も言うなや!!!!!…もうええ、こんな家出てく」


謙也くんは、困難な道になると分かっとって俺と生きることを選んでくれた。嬉しかった。マンションの家賃も、辛いことも悲しいこともはんぶんこした(優しい謙也くんのおばちゃんはこっそり仕送りしてくれる。逆に申し訳ない、ごめんなさい)。一緒に起きて一緒にご飯食べて一緒の家に帰ってきてえっちして一緒に寝て、また一緒に起きて。幸せやった。すごく、すごく。


でも不安になるんや。俺が謙也さんの幸せ奪っとるんやないかって。決して祝福はされない恋愛。俺のために大好きな家族を捨てた謙也さん。謙也さんがいなくなったせいで医者になれ後継ぎになれと言われる謙也さんの弟。どれをとっても原因は俺にある気がして、ため息。それでも俺から謙也さんに思いを伝えられる日が来ることは絶対無い。俺って本間に卑怯やと思う。

昔聞いたことがある。本当の愛は、「この人と幸せになりたい」やなくて「この人となら不幸になってもいい」なんやって。せやけど俺は、「この人だけでも幸せになって欲しい」って思うんや。俺はどんなに不幸になってもえぇ。せやから、今だけは謙也さんの手を離したくない。たとえいつか一緒におれんくなる日が来ても、今だけは。

「あ、やばい。遅刻してまう」

俺はまぬけなキーホルダーが付いとる(謙也さんが付けた)鍵で戸締まりして家を出た。うわ、むっちゃ良い天気。

なぁ神様、あの人と一緒におらせてな。少なくとも、あの人がひとりでネクタイを結べるようになるまでは。



- 12 -


[*前] | [次#]
ページ:




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -