2.wrong affection





「bitter ambiguous」の続きです








「ほかの誰かをを不幸せにする幸せはね、本当の幸せやないんです。この世に不必要なんです。せやからもう、終わりにしましょ、千歳先輩。…大好きでした」


そう言って、財前は千歳の前から去った。俺の位置からは、千歳の顔は見えんかった。






財前が千歳に別れを告げるところを見てしまってからも、俺の心は満たされへんままやった。やって、俺はもう知ってる。千歳の心は、もう俺のものやない。もうとっくに、財前のもの。

(ほかの誰かを不幸せにする幸せって、俺も該当するやんなぁ)
この思いも、不必要やっていうのか。



「なぁ千歳。ひさびさにしようや。」
「…うん、白石がいいなら」

千歳はあの日から俺に触って来ぉへんくなった。きっとずっと、財前のこと考えとる。やから、恥も何もかも捨てて俺から初めて誘った。
でも、行為を進めて行っても千歳のは萎えたまんまで。


「…はは、白石、ごめん。俺、勃たんくなったんかねぇ。困ったばい…」
「…千歳、今。誰のこと考えとる?」


もう、俺にはこうするしかなかった。千歳を手放すしか道は残ってなかった。

「千歳、好きやで」
「…俺も、「俺もちゃうやろ」
「…」
「お前が好きなのは、財前やろ」


本当は心が叫んでる。行かないで。おいて行かないで。何処にも行かないで。


「千歳。俺はお前が好きや。いつでも戻って来てええよ。せやから、財前のとこ行ってこいや」
「白石、」
「…はやく、これ以上は無理やから…俺が泣く前に、行って」



「すまんばい」って言って千歳は走ってった。財前のところへ。きっとあいつらは幸せになる、涙は止まらないけど。
なぁ千歳、大好きやったで。めちゃめちゃ大好きやったで。






















戻って来るわけないと思っとった千歳は情けない顔して戻ってきた。財前に、こう言われたらしい。

「誰かを不幸せにする幸せは要らんって言ったでしょう?俺はあんたが好きです。でも、白石部長もあんたが好きなんや。俺は白石部長からあんたを取ってしもた。せやから俺、あんたを疑ってしまうかもしれん。次はまたどっか知らん奴のとこ行ってまうかもしれんって。そんなの、寂しいやないですか。俺はきっと、 あんたのこと100%信じきれへん俺のこと嫌いになってしまうかもしれへんやないですか。

せやから、あんたは白石部長のところに帰ってください。それで全部、元通り」


俺は甘かった。財前は俺以上に千歳のことばっか考えとったに違いない。いつもいつでも俺に対する罪悪感と戦っとったに違いない。


わざと香水の香り残しとんのかと思ってた。でもきっとそれは、溢れそうな思いを抱えて抱きついてたから移ったもの。

わざとキスマークつけとんのかと思ってた。でもきっとそれは、彼の思いがこめられたもの。


財前は千歳が欲しかったんや。それに、手に入る状況やって整った。でもそれをしなかったのは、千歳がもうこんなことせぇへんように、俺が泣かないように。




「白石、いっぱいごめんね」
「千歳…」
「大好きだったばい。でも今は、その頃の気持ちと違って、俺は、」
「…」
「俺は光くんが好きやから、自業自得やけど、実らんかったけど…白石のところには帰ってこれんよ」
「…それで、ええんちゃう」



いつかまた、時間がかかってもええから。一緒に笑い合える日が来ますように。千歳のことを思っても涙が出ない日が来ますように。


こんな風になっても千歳のことをまだ好きな俺が、千歳に俺のことを忘れないでほしいと思う俺が、嫌やった。





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