1.bitter ambiguous






俺が俺じゃなければよかったのに。そう思ったことは何度もある、けど。俺は俺のままでがんばりたいと、愛されたいと、思ったのも本当なんだ。






「白石、体平気?」
「うん、大丈夫や。千歳毎回心配しすぎ」
「そんなことなかよ。白石に無理させたらいかんたい」
「…千歳、好きやで」
「俺も好いとぉよ、白石」



情事後、恋人同士の甘い甘い会話。ただ、現実はどうやら甘くはないみたいやけど。

(あ、耳の裏、キスマーク)
あれはきっと、俺がつけたやつやない。



いつからだったやろうか。千歳が心から俺を求めてくれんくなったことに気づいたのは。セックスが異常なまでに優しくなったのは。好きやと言うとき目をしっかり合わせてくれんくなったのは。


「じゃあちょっと飲み物買って来るばい。白石はミルクティーでよか?」
「おん…なぁ千歳。耳の裏、キスマークついとるよ。俺、そんなとこつけたっけ?」
「あぁ。一昨日のときつけたんやなか?」
「またユウジあたりに冷やかされんで」
「別に気にせんからよかよ」
「はは、千歳らしいわ」


嘘吐き。それで隠しとるつもりなんか?俺を誰やと思うとるん。丸分かりや阿呆。



千歳が浮気しとることくらい、すぐに分かった。俺は千歳だけが好きやのに、千歳はそうやない。まぁ、相手は予想外やったんやけど…。

女物みたいにきつくないから千歳は気づいとらんかもしれんけど、バリバリするで。
財前の、香水の香り。



はじめは憶測に過ぎんかった。同じ香水使うとるやつやってきっとたくさんおるやろうし。憶測やすまなくなったのは、あの日。図書館の本棚の影から、ふたりを見つけたから。
財前にキスしようとした千歳を、彼は軽く拒んだ。


(光、)
(あかんです、千歳先輩。キスは、駄目)
(なんでいかんと?)
(キスしたら、誰が誰のものか分からんくなるでしょう?)
(……)
(千歳先輩は、白石部長の。)


そんな風に、泣きそうな顔で言うた財前を、千歳は苦しそうに見つめた。


もう、どっちが浮気なんか分からんわ。俺のが早かっただけで、千歳の心はもう財前に持ってかれてしもたんかもしれん。浮気やなくて、本気なのかもしれん。
やばい、泣くな俺。千歳はすぐに帰ってきてしまう。


こんなに苦しめられて、でもさよならは言えなくて。千歳は駄目な男や、一人を一途に思うことが出来へんやなんて。せやけど、離れられん。別れたくない。せやから俺は何も知らない振りをする。財前には悪いけど、千歳はやらんで。どういう意図でつけたかは知らんけど、お前のキスマーク。あとで俺ので消したる。 それがたとえ、無駄やとしても。



「白石、ただいま」
「おかえり千歳」


ねぇ千歳。俺今、上手く笑えてる?






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