君は僕の生命維持装置





「はい、あ、部長。どうも、どうしたんすか急に…………え」

三年生が引退して俺は部長になった。部長の仕事は本当に大変で、せやけど俺は頑張れてた。俺には謙也さんがいてくれるから。俺らはこれからもいろんなことふたりで乗り越えてく。約束やってした。…やのに、


「謙也さんが、事故…?」



久々の白石部長からの電話は、謙也さんが事故にあったっていう話で。嘘や、あの人がいなくなる?そんなん考えれん。嘘や。嘘やんな。


白石部長は続けて何か言っとったけど俺にはもう何にも聞こえなかった。病状とか、今どこにいるかとか、聞きたいことはいっぱいあるのに音になって耳に入ってこん。酷い錯乱状態やったと思う。頭ん中は謙也さんでいっぱいで、俺は途中で意識を飛ばしてしまった。

なぁ、謙也さん。俺はもう、あんたがいない世界での生き方を知らん、知りたくもない。







「…る、かる」
誰かに名前を呼ばれた気がする。頭には何かが乗ってる感覚があって、多分濡らしたタオルやろなって分かった。俺何してたんやっけ。…あぁ、そうや、謙也さんが事故にあったって聞いて、あまりのショックで気ぃ失ったんや。頬は涙でぐちゃぐちゃになっとって、頭はちゃんと働かないままなのに、涙は止まらん。


「ひかるっ!!!!!!」
今度はおもいっきりでっかい声で名前呼ばれて、そしたらそれは聞き間違えるわけない、俺の大好きな人の声で。
「…けん、や、さん」
謙也さんは泣きそうな顔で笑った。俺の髪撫でつけて、よかった、て小さく呟いた。


「けんやさん、なんで俺んちにおるん…」
「光の義姉さんが連絡くれたねん、光がこんな苦しそうにすんのは絶対謙也くん絡みやって、来てやってくれんかってな」
謙也さんはちょっと悲しそうに、自虐的に笑って、すまんって呟いた。義姉さん何言うてんねん。

「…けんやさん、事故って…」
「上手いことかわしたし打撲で済んだで。部活も引退しとるしな、こんくらいの打撲日常生活に支障なん無いわ」
さすがスピードスターやろ、ってピースしながら言う謙也さん。

「……こっちがどんだけ心配した思てんねん」
「うん、ごめん。光も悪いねんからな、白石から連絡きたやろ。最後までちゃんと聞けや」
「やって、謙也さんがもしおらんようになったらって思ったら自分でも意味分からんくなって…っ」


もしそんなことが今後あったとしたら。俺は謙也さんを殺した奴をめっためたにぶっ殺す。どんな理由があったにしても、どんな偉い人やったとしても、絶対に殺す。んで、そのあと俺も死ぬ。人を殺した奴と自殺した奴は天国に行けへんらしいっていう話を聞いたことがある。別に天国なんて行けんくてえぇし。謙也さんがおらん人生なら地獄に堕ちたほうがまし。でも謙也さんは絶対天国行くような人やもんな、離れ離れは寂しい。

なんて、ひどくぶっとんだこと考えとったら謙也さんに抱きしめられた。俺の涙だらけの顔を手で拭い、ごめんと繰り返しながら頬にキスをする謙也さん。あぁ、この人は生きている(やって、手もくちびるも、こんなにもあったかい)。

「謙也さん、めっちゃくちゃ重くて女々しくてめんどくさいこと言うてえぇですか」
「ん、ええよ」
「…俺、謙也さんおらんようになったら多分死ぬ…いや、絶対死んでまう」
「なんや、俺と一緒やん」
「え」
「俺、光がおらん世界では生きれん」



重ったいなぁ。俺も謙也さんも。男同士の恋愛に加えてこの重さ、めんどくさいことこの上ない。

「もう事故なん合わんでくださいね」
「うん。光ももう倒れんでな、お願いやから」
「それは謙也さんが危ない目に合わなきゃ大丈夫ですわ」

それでも俺はこの人じゃなきゃ駄目や。なんや俺達、お互いがお互いの命綱握っとるみたいやな。俺達を繋いどるのは、赤い糸やなくて命綱。そんくらいがちょうどええわ。赤い糸なんて切れてまうかもしれんやろ。

(…ほんま、愛しとる、)

俺は謙也さんが離れてかんようにしっかり手を握って眠りに落ちた。



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