泣いてもいいよ




・選抜ネタ
・ユウジ視点
(光←ユウではないです)











レギュラーで選抜行けんかったんは俺と健二郎と財前だけ。悔しかったけど、俺らはわりかしすんなりその事実を受け止められた。試合内容とか見るとやっぱそれなりに足りひんとこもあるし。特に財前は来年もあるしな。

全国出とるから受験は推薦もらえるやろうし、いきなり生活からテニスが無くなるのはさすがに堪えられん。せやから俺は引退したあとも部活に出とった。

新部長はもちろん財前。あいつは無愛想やし、それにあの白石の次となると相当プレッシャーなんやないかと三年全員心配しとったけど財前は難無くやってのけた。難無く、とは言っても裏で相当な苦労はあったんやろうけどそれを感じさせへんくらい"財前部長"をやっとる。要領もええし、他の部員ともなんだかんだ仲良ぉやっとるで安心したわ。





今日はいつもより長いこと練習してまったな。あかん夢中になりすぎた。みんな帰っとるやん。自主練で最後までなん現役ん時もしたことないのに。やばい財前に文句言われる(鍵閉めれんやろがって)。
部室に戻ると財前の姿は無かった。机の上には鞄と書きかけの部誌。あいつ何処行ったんや。まぁとりあえず着替えるか。


ふと耳を澄ますと、部室の裏から声が聞こえた。それは確かに財前のもので。



「っ、けんやさん、ちゃんと、がんばってますか?おれは、むっちゃがんばっとる。……急に電話かけてくるなんて反則や」


どうやら電話しとるみたいで、相手は謙也。悪いとは思いつつも俺は立ち聞きし続けてしまった。だって、財前は泣いていたから。


「…っ、けんやさん、おれ本間に、がんばっとんのやで。ちゃんと、いろんなこと我慢しとるよ、でも、けんやさんがそばにおらんのだけは、我慢できひんねん、っ」

しゃくり上げながら財前は言葉を紡ぐ。それは切なく静かな心の叫びやった。

「俺、けんやさんが選抜選ばれて本間嬉しかった。自分が入るより嬉しかった。せやから応援したかった。…やけど、あんたがおらん生活は、辛くて、苦しくて、ずっとずっと心臓が痛いくらい悲しい。……ごめんなさい、弱くてごめんなさい、」

ごめんなさいを繰り返す財前に第三者であるこっちまで目頭が熱くなる。俺でこんな気持ちになるんやから謙也は泣いとるやろ。

「電話も、メールも、我慢したけど…本間は忘れられるのが怖くて、邪魔になんのはもっと怖くて…なぁけんやさん、こんなめんどくさいやつ嫌かも分からんけど、嫌わんとってなぁ、なぁ。」


(阿保か。嫌うわけないやろ。電話もメールもしてくれや。俺やって寂しいんやから。忘れんし、邪魔にもならんから。信じてや。)

おそらく謙也はこんなことを言ったんやろう。

「じゃあ、毎晩電話する、メールだって。けんやさんのこと信じとるよ、けんやさん、好きや、本間に好き…っ」


財前はこれだけ言うと好きという言葉を繰り返しながらわんわん泣いた。どうやら電話を切ったあとも財前はそのまま泣いとったみたいや。

よく見ると部誌のあちこちにシワがあって、涙のあとやって気付いた。ずっとひとりで悩んどったんかな。俺は書きかけの部誌にでっかい字で「財前はがんばっとります!むっちゃええ部長なんでどうかみんないじめんでなかよぉしてやってくださいね!追記:オサムちゃん働け!はよ結婚しやがれBYヒトウジ☆ユウジ」って書いて、財前の泣き声が落ち着いてきた当たりで自分と財前の荷物持って部室を出た。



「おう財前!」
「…ユウジ先輩」
「ほら、さっさとこれ出して飯食い行くで。今日だけ特別奢ったるわ。ただしサイゼかマクドな」
「…デザート、つけてもいいすか」
「はは、しゃーない今日だけやで!」




財前は偉いなぁ。俺なんかよりずっと。明日から鍵当番くらいやってやろう。しゃーないから謙也がおらんときくらい面倒見たるわ。あーあ。俺も今日帰ったら小春に電話してみよかな。多分出てくれんけどな(片思いって切ない!)。とりあえず財前が俺が書いた部誌を見て「先輩本間阿保や」って言いつつも笑とる姿想像したら、なんや可笑しくて、ちょっとほっとした気持ちになった。



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