折角の大晦日だというのに、一番大切な人は肝心な時に限って私の側に居ない。
恋人のネジは、一昨日から任務に行っている。
家に帰って来るのは、既に年を越した頃の予定らしい。
其れにしても、一人で恋人を待ち続ける大晦日。
大晦日どころか、お正月も独りきりなのは…かなり寂しい。
時計を見ると、十一時半を指している。
二人分作った年越し蕎麦を眺めて、私は溜息を吐いた。
好い加減お腹も空いたし先に食べようかとも思ったけれど、それはやっぱり嫌だった。
蕎麦は、ネジの好物だ。だからこそ、二人で「美味しいね」と笑い合いながら食べたい。
それに独りで食べるよりも、ネジと一緒に食べた方が美味しいに決まってる。
「早く帰って来てよ、ネジ…」
早くしないと、お蕎麦、伸びちゃうじゃない。
三、二、一…。
時計の針が、十二時を指した。
とうとう新年の始まりだ。
あけましておめでとうございます。
…あけましておめでとう、ネジ。
心の中で、そっと呟く。
今頃、ネジは年が明けた事も知らずに任務を遂行しているのだろう。
何だかいたたまれない気分だ。
そろそろ時間だ。
私はまた溜息を吐き、タンスから分厚いコートを取り出した。
去年も一昨年も、初詣はネジと一緒だったけれど。
今回は、独りで行くとしよう。
初詣に行く用意も一通り終え、私は玄関で靴を履いた。
ネジが任務で私の元を離れる事なんて、数え切れない程あったのに。いつもより無性にネジが恋しいのは、今日がお正月だからか。冬だからか。分からない。
…いやいや煩悩め。消え去れ。一旦、ネジの事は忘れろ。さっさと初詣しに行け。
私は深く深呼吸して、玄関のドアを開けた。
すると。
「すまない….もう、年は越してしまったな…」
「…ネジ?」
ドアを開けて一番初めに目に入ったのは、息を切らしたネジの姿だった。
色白な頬を僅かに紅くして、真っ白な目で私を見つめている。
何故ネジが此処に?と考える間もなく、ネジの腕が私を優しく包み込んだ。
「…はあ…簡単な任務だったからな、急いで片を付けて帰ってきた…」
「ネジ…」
ネジが、優しく私を抱き締める。私もそれに応え、ネジの服の裾を強く握った。
「お前に会いたかった、とか言ってくれないの?」
「わざわざ言わなくても、お前は分かるだろう」
「…うん」
二人で抱き締め合ったまま、静かに言葉を交わす。
大好きな人の側に居られるこの瞬間が、何よりも幸せだった。
「初詣に行く所だったのか?」
「うん、ネジは帰って来ないと思ったから…」
「オレは…初詣の前に蕎麦が食べたいが」
「流石、蕎麦好きさん…」
「それそろ家に入るか」
「えー…暫くこのままが良い」
「分かった」
暫く、このまま抱き合っていたい。
顔をネジの胸元に擦り寄せる。
「…あ」
「どうした」
「ネジの体、冷たい」
「野外の任務だったからな」
「…家、入ろうか。暖房もあるし」
「ああ…名前」
「何?」
名前を呼ばれ上を向くと、ネジが私の耳元に顔を寄せた。
「あけましておめでとう」
「ん、あけましておめでとー」
…………
あけましておめでとうございます。
うっわ!短っ!場面飛び飛びだっ!駄文っ!←
ネジさんのキャラ崩壊が酷すぎる。ごめんなさい。