儚い君と、約束。

「ネジ。一つ、お願いがあるんだけど」


オレから数歩離れた場所で、彼女は言った。



いつもは笑みを絶やさない名前の顔が、今日は何故か暗く沈んでいた。
暗い、というよりは縋る、という表現が正しいか。そんな目をして、オレを見つめている。

今にも泣き出しそうな顔だ。


「顔色が悪いぞ。何かあったのか?」

「うーん…まあ色々と、ね」


オレが聞くと、名前は笑って目を逸らした。
無理して笑っているのが見え見えだ。

此奴がここまで追い詰められる出来事は、今の所耳にしていないが。嫌な胸騒ぎを感じる。
オレは名前に一歩近付き、問いかけた。


「頼み事か?」

「うん、あのね…」


俯き、拳を握り締める名前を黙って見つめていると。


「…名前?」


下を向いた彼女の瞳から、大粒の涙が零れた。

突然ぼろぼろと涙を流し、泣き出した名前を見て、軽く動揺してしまう。
何かあったのは気が付いていたが、いきなり泣き出すなんて思いもしなかった。


「ネジ、ネジ…」

「何だ」

「ネジ、約束、して」


しゃくりあげながら、名前が言う。


「約束?」

「何が…あっても、死なない、って」

「…死なない?」


予想外の言葉に、オレは眉間に皺を寄せた。
名前は頷き、震えた声で途切れ途切れに続ける。


「ネジって…何処かに、行っちゃいそうで、怖いの…急に、死んじゃい、そうでっ…」


「死」を口にした途端に、名前の嗚咽が激しさを増した。







何となく、名前の気持ちは理解出来る。
此奴は顔が広く、忍の友人や知り合いも多い。
その分、忍の友人が死んだ…という知らせもよく聞く。

その知らせを聞く度に、名前は「仕方ないよ、忍なんだから」と笑っていた。
その笑顔を見て、素直に此奴は大丈夫だと信じていたオレも馬鹿極まりない。

何が洞察力に優れた白眼だ、と自嘲したい気分に駆られる。







軽々しく「大丈夫だ」と慰められる筈が無い。綺麗事等言いたくもない。



オレは名前の頭を撫で、そっと口を開いた。


「…オレは、お前と違って木の葉の忍だ。忍で在る以上、常に死と隣り合わせの状況にいる」

「うん…」


名前は俯いたまま、小さな声で返事をした。


「いつ、何処で死ぬかもまるで予測が付かない。明日死ぬかもしれない。今日かもしれない。だが、オレは…その覚悟が出来ている」


今度の忍界大戦もそうだ。
遊びではない。力が足りず勝利を掴み取れない者は、真っ先に死んでゆく。
これまでの簡単な任務等とは、比べ物にならない位の危険が伴う。
死ぬ確率だって、相当高い。

だが、それが嫌だとは思わない。
忍界大戦は、ナルトを守る為の戦争だ。
仲間や里を守るために、戦うのなら本望だ。
例え、命を失うリスクがあるとしても。


「確かに死への恐怖が無い、とは言い切れないが…」


我ながら、言っている事が支離滅裂になっていると感じる。
…頭だけで文を構成するのは、難しい物だな。
オレは溜息を吐いて、また口を開いた。


「リー、ガイ先生、シカマル…他の忍やその家族もそうだ。いつ家族や自分が殺されるか、まるで分からない。だが…其れを受け入れた上で、生きている。…後は分かるな?」

「…私にも、受け入れろ、と」

「そういう事だ。直ぐに、とは言わないが…」


オレが口に出したのは、思いの外冷たい台詞ばかりだった。
もっと言葉はある筈なのに、こんな生々しい事しか言えないとは…オレは意外と口下手らしい。

ただ、綺麗事や戯言だけは言いたくなかった。名前には、どんな現実も有りのまま伝えたかった。

此奴なら、理解してくれる。




数分後。
名前は涙を手の甲で拭い、深呼吸してオレを見つめた。


「…有難う。受け入れたいと、自分でも思う。今はまだ怖いけど…頑張ります」

「ああ」

「あ、もう一つだけ約束して欲しい事があるの。これまでにも、何回か他の忍さんに言ったんだけどね…」

「何だ?」


名前が、今日一番の笑顔で呟いた。


「ネジは、ネジらしく死んで。絶対に、絶対に後悔しない様に、未練なんか残さない様に生きて」

「…?おい、突然どうした」

「何となく、言っときたかっただけ」


俗に言う「天然」なんだろうか、此奴は。
…名前らしい台詞だ、といえばそうだがな。

たまには乗ってやるのも悪くない。
オレはふ、と微笑み、名前に言った。





「勿論だ、約束する」







…………
初、短編夢小説。
題名の「儚い君」は、ネジさんの事です。
感情移入し過ぎて泣きながら書いたせいか、文章が壊れました。




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