私は神田君が嫌いです。

その理由は主に3つあります。

1つ目に、神田君は神様が創造した生き物の中で、たぶん一番バカです。神様は数ある一番の中でもバカという不名誉極まりない称号を神田君に与えました。その証拠に神田君は掛け算と九九の違いが未だに良く分かっていません。9×9=81以上の数は印刷会社のミスだと本気で思っているし、後輩のウォーカー君にもドヤ顔で説明していました。あの時のウォーカー君の哀れな生き物を見る目を思い出すたびに、やっぱり神田君は世界一バカな生き物だと確信させられます。

2つ目に、神田君は赤ん坊が生まれたままの純真さを持ち続けた天真爛漫なバカです。神田君は人を疑うことを知りません。2年生の修学旅行で海に行ったとき、ヒトデと戯れている神田君の耳元で、ヒトデも昔は人だったのに、と呟いたら浜という浜からヒトデが消えました。宿に帰ったら神田君が大量のヒトデを前に、人に戻すんだと張り切っていました。磯臭すぎて住民から苦情が来た時の神田君の失望に満ちた表情を思い出すたびに、やっぱり神田君は宇宙一の天真爛漫なバカだと思います。

3つ目に、神田君はメロスも裸足で逃げ出すほど一途なバカです。神田君の執着心は真面目を通り越して脅威すら感じます。3年生の冬に神田君のお家に遊びに行ったとき、ペットの岡目インコを自慢しまくる神田君を哀れな目で見ていると、岡目インコが突然「パッツン!パッツン!禿げさらせぇ!!」と神田君を侮辱しました。一瞬で犯人が誰だか分かった私に対し、神田君は本気で喧嘩していました。鳥と。やっぱり神田君は銀河一の輝けるバカだと実感させられました。


「それで、つまり何が言いてぇんだ?」

「嫌いなんだよ、君のこと」

「…俺だって好きじゃねぇよ」


顔を背けて腕で口元が見えないようにしながら、彼は言う。自分で別れを切り出しておいて、今更何を傷ついているのだか。剣道部の貴公子が聞いてあきれる。


「ねぇ、神田君。私は君と別れたことを後悔しないよ」

「振られた上に未練がましいのは最低だもんな」

「振った上に未練がましいのも最低だけどな」

「……」

「私ね、ちゃんと神田君のこと嫌いだよ」

「そうだろうな。付き合う時もお前別に俺のこと好きじゃなかったもんな」

「うん。むしろ名前も知らなかったから告白されてびっくりしたよ」

「中学の時も同じクラスになったことあったんだけど」

「そうだっけ」


そうだよ、と呟いた神田君はいつもの神田君がするような不敵な笑い方ではなく、眉を下げた、なんだか寂しそうな笑い方をした。
風が吹く校庭の隅の方で、抱えた膝を更に抱きしめるようにして膝に顔をうずめた。……参ったなぁ。


「お互いに好きじゃないなら好都合だな」

「付き合ってる理由もないよね」

「俺はお前のこと好きじゃないよ」

「神田君、ちゃんと嫌いっていいなよ」

「……」

「私は嫌いだよ。だからさ、」


そんな泣きそうな顔しないで


隠すように膝に顔をうずめた彼から、その一言を聞くことは最後までなかった。







意地っ張りの別れ方
















20140123
別れるときになって初めて好きだと気づいた2人の話
 





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