「まったく恋人らしくないよな、お前ら」
朝の挨拶もそこそこにラビが突然言い出した。お前らというのは当然僕と彼女のことだろう。
今そんなことを言うところを見ると、どうやら朝の僕らの言い合いを見てたらしい。
喧嘩の原因は彼女の朝の準備が遅いということだった。僕が迎えに行ってるというのに30分もの間鏡とにらめっこを続けるのだから怒っても仕方ないだろう。そのせいで毎日遅刻すれすれだ。
「何を今さら」
「開き直るのかよ」
「彼女相手に恋人どうこう考えるのが間違いなんです」
「……なあ、当たり前だと思うけどさ、」
「何ですか」
「キスくらいしたよな?」
「……」
ウッソと呟きながら彼はこの世の終わりが来たような顔をした。そんな憐れんだ目で見られるほどのことを言った覚えはない。
「付き合って……?」
「ますけど何か?まだ2ヶ月ですよ」
「もう2ヶ月だろ。そんなんだから他の男につけ入られんさ」
言った瞬間彼の顔が凍った
「今、なんて?」
「あ、いや」
「どういう意味ですか」
「あの、怒らないで聞けよ?」
「分かったから早く」
「さっきあいつに告白しようとしてる奴があいつ裏庭に連れていくの見たんだよ」
「あんにゃろ」
「怒らないって言ったじゃん!つーかギブギブ!」
掴んでいたラビの襟元を乱暴に離して走る。始業のチャイムが、バタバタと響く足音とともに耳に響いた。
***
裏庭の階段裏
彼女と例の男子学生がよく見える距離だった。
例えるなら爽やかイケメンと称されるであろう彼が何故彼女などを好きになったのか。世界不思議発見で取り上げられるくらいの謎さである
「なんでついてきてんですか、ラビ」
「だって授業より面白そうじゃん」
「つーかなんでバ神田まで連れてきたんですか」
「や、トイレから出てきたと思ったらついてきてて……」
「なんだ?走り込みに行くんじゃねーのか」
「行かねーよ」
『好きなんだ』
爽やかイケメンが頬を染めながら彼女に言った。
聞こえた単語に思わず神田の首を絞めてしまった
「ちょ、アレン落ち着け!ユウの首絞める必要がどこにあるんさ」
「すみません、イラッとして」
「いやいや取り敢えず離そうぜ」
『君の彼氏より君を好きな自信がある』
「アレンーー!駄目だって死ぬって!」
ラビの必死の抵抗で神田が引き剥がされた。当の本人はいまだに自分の身に起きてる出来事が理解できないらしく、僕を睨みながらも首を傾げていた。こいつ馬鹿なんじゃねーの。
その時、彼女が沈黙を破った
『私も好きですよ、私が』
「あいつらしいな」
「まったくもって自意識過剰ですよね」
「あいつ馬鹿なんじゃねーの」
「バ神田には言われたくないでしょうね」
『僕なら君と上手くやっていけると思うんだ』
『……まあ私が好きという点では気が合うでしょうね』
ちょっと待て、なに同調してんだ。そこは否定するべきだろ
『送り迎えも毎日する。君が望むことはなんだって』
『それは魅力的ですね』
だから、なんで。
お前の中に僕に悪いという気持ちは1ミリもないのか。つーかこのままだと僕振られるわけ?
……冗談じゃない
『君の朝の準備が遅くてもいくらでも待つし』
『ああ、』
そこで彼女は唐突に思い付いたような声をあげた。
『待っても意味ないですよ』
『……え?』
『アレンに見せるためのお洒落ですから』
隣のラビが嫌な笑みを向けてきた。
"気持ち悪いですやめてください目潰ししますよ"
この状況でどれを言っても効果はなさそうだ。
僕の彼女は自意識過剰
(30分くらい我慢してやるか)