「先生」
「なんですか、ウォーカー君」
「神田とは確かビッグベンで待ち合わせでしたよね」
「そうだね」
「やたら低空飛行してくる飛行機が見えるんですけど」
「疲れてるんだよウォーカー君。大丈夫、私には見えない」
「2人とも現実見ろよ。あいつは着陸する気満々さ」
見上げた空には地上にでっかい影を作る鉄の塊が浮遊している。周囲の観光客がどよめくのを横目に全力で他人を装った。
「待たせたな」
「神田君アウト」
「あ?なんだよ、ちょっと遅れただけじゃねぇか」
「そこじゃないですよ」
「ユウのおかげでみんなが俺たちを避けて道が出来たさ。なにこれモーセ?」
「?良かったな」
「駄目だこいつ」
「神田に言葉のキャッチボールを求めることがそもそもの間違いですよ」
ため息をついた同級生2人に神田君は首をかしげて不思議そうな顔をした。ウォーカー君の言葉を最後に神田君を責める人はもういなかった。だって言葉が通じないんじゃ責めたところで意味がない。
「落ち着いたらお腹が減ったね」
「そうさねー」
「何か食べましょうか。ラビの奢りで」
「なんでよ」
「なんでって、ラビは女性に奢らせるつもりなんですか」
「お前も男だろ」
「だって僕ポンド持ってきてないもん」
「最初からたかる気で来てるさこの子」
「怖いね〜」
「大体そういうのはユウに頼めばいいだろ、こいつ金持ちなんだから」
「神田に奢られるとか死んでも嫌です」
「奢られる奴の言葉じゃねぇぞ」
「そんで?何食べるさ?」
「ウォーカー君イギリス出身だよね?何かおすすめないの?」
「そうですねー。やっぱりフィッシュ&チップスでしょうか」
「日本語でおk」
「先生英語も教えてましたよね」
「なんだそれ、コピー&ペーストの親戚か?」
「僕コピー&ペーストさんと知り合いじゃないんで分かりません」
「なんかよく分からないけどそれにするさ」
「楽しみだねー、ヒップ&ポップス」
「あんま美味しそうな名前じゃないがな、ジップ&ロック」
「お前ら英語やり直せ」
卒業旅行に行こうA
(なんだよ、普通の魚かよ)
(魚ですけど、それが何か?)
20120701