「これから卒業旅行ということで皆さんウキウキしているところと思います。が、1つ残念なお知らせがあります」
「なんさ」
「なんですか」
「神田君が成田と羽田空港を間違えたそうです」
「ああ」
「やると思ってましたよ。それで奴は来ないんですか?」
「いえ、金持ちの特権を使って自家用ジェットでくるそうです」
「そういやあいつお坊ちゃんだっけ」
「なんだ来るんですか。それこそ残念なお知らせですよ」
「我々は平民らしくエコノミークラスに乗るとしましょう。何か質問がある人は?」
「CAさんは何人までナンパしてもいいんですか〜?」
「機内食はおかわり自由ですか?」
「よし、君たちは日本で留守番だ」
春の兆しに頭をやられた元高校生2人をひきつれて空港を後にしたのは、それから1時間後のことだった。
元々は塾の講師と生徒という間柄。なんてことはないただのしがない雇われ大学生と、大学進学を目指してる高校生たち、という間柄だったのだ。つい先日まで。このたび目出度く高校卒業を果たし、春からの進学先も全員見事に決まってホッと胸をなでおろしたのもつかの間、赤い少年が余計な一言を放った。
「卒業旅行したいさ」
「いいですね」
「賛成だ」
「おお、いいんじゃない?いってらっしゃい」
「なに言ってんさ。先生も一緒に行くんだよ」
「君が何言ってんの。先生は何も卒業してないんですけど」
「僕たちの先生を卒業したでしょ?」
「えー、君たちだけで行ってきなよ。先生は若い子についていける自信が…」
「俺の親の別荘使っていいみたいだから、ヨーロッパにするか」
「行きます」
「「「……」」」
ヨーロッパという魅力的な言葉に目がくらんだのは認めよう。自分から行きたいと言ったことも。しかし良く考えてみれば、いや良く考えなくても分かるんだけど、これってかなりの貧乏くじを体よく引かされたんじゃないの。
「せんせーい、俺膝枕ないと眠れないんさー」
「ですって、アレン君」
「あ、CAさん、機内食だけじゃ足りないんで何か食べるものください」
「すみません、増えるわかめでも食べさせといてください」
「先生の膝気持ちいい」
「CAさん、お湯いただけますか。顔にかけたら火傷するくらいの温度で」
「先生、お腹空いたから先生のおやつ食べていいですか?」
「正露丸で良ければいくらでも食べていいですよ」
「せんせーい」
「先生」
「CAさん、この飛行機いつになったら着くんですか」
卒業旅行に行こう@
(あと8時間…だと…?)
20120610
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