「前いいですか?」


綺麗なアルトの音程に顔を上げた。私の目の前に立つエクソシストの少年は朝にふさわしい爽やかな笑みを浮かべて私の目の前の席に座った。そぐわないのは両手に抱えきれないほど積まれた食事の量。


「今日は朝早いんですね」

「残念ながら、早いんじゃなくて寝てないのよ」

「…大変ですね」

「その言葉だけで報われるわ」


身体に気を付けて頑張ってください
早速大皿の料理をせっせと口に運びながら少年は言う。どんなに紳士でも花より団子という言葉がこの子には似合うと思った。


「そういえば、今日はリーバーさんは?」

「ああ、なんか室長の尻拭いがあるから後から来るって」

「そうだったんですか。いつも一緒にいるから喧嘩かと思っちゃいましたよ」

「ふふ、喧嘩なんてしたことないわ」

「さすがおしどり夫婦!」


アレンは嬉々として言った。だがしかしその言葉には少々、いやかなりの語弊がある。最近変な噂が流れているのは知っていたがよもや信じてる人がいるとは思いもしなかった。早めに誤解を解いた方がいいだろうと考え、口を開いたまさにその時だった。


「おー、今日はアレンも一緒か」

「リーバーさん、おはようございます」

「おはようリーバー」

「おはよう。なんかお前におはようとか言われるの新鮮だな」


四六時中一緒にいるもんな、とさして気にもしない様子で言ってのけた。この人のこういう発言が語弊を生むのか。


「そういえば髪切ったんですね。とてもよくお似合いですよ」

「ふふ、わかった?やっぱり研究中に長いのは邪魔でさ」

「へーお前髪切ったんだ」


リゾットをほう張りながらリーバーは何気なく言った。いつものことだ、いちいち反応することでもない。のにアレンは信じられないという顔でリーバーを見る。


「リーバーさん気づかなかったんですか?」

「アレンはよく気づいたな、さすがだよ」

「リーバーさんはもう少し自分のパートナーには気を使うべきですよ」

「おお、そうか」

「そうですよ。こういうのが熟年離婚につながるんですよ」


真面目に、至って真面目に言ったアレンにお茶を吹いた。だからなんでそうなる。


「離婚も何も俺ら結婚してないし」

「マジですか、式はいつですか」

「結婚する予定もないし」


途端少年の顔は青ざめた


「ご、ごめんなさい、僕聞いちゃいけないこと聞いちゃいました…?」

「え?なんで?」


申し訳なさそうにうつむいた少年はごめんなさいを連呼し続けた。傍から見れば上司ににパシリにされて虐められてる新入社員である。


「ど、どうしたんだよアレン、顔上げろよ」

「2人には2人の事情があるのに僕ってば無神経なこと聞いちゃって……本当にごめんなさい」

「いや、だから謝らないでくれよ」

「大変だぁ、リーバーがアレンをイジメてるぅ」

「冗談で済まなくなるからやめなさいお前は」


なおも平謝りを続けるアレンに、なぜ謝られてるかも理解できていないリーバー。きっと2人の会話がかみ合うには私のこの1言が必要なんだろう。


「アレン、誤解してるようだけどさ」

「…はい?」

「私たち付き合ってないのよ?」


途端少年は固まった。








リーバーとパートナー

(う、嘘だ!)
(本当だよ)









20120415
 





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