#
18
「試合終了!105対52で帝光の勝利!」
その驚異的なスコアに会場の誰もがどよめいた。そして私達も、
「さあ、学校に帰って試合の反省点でも話し合おうか。なぁ、納言?」
別の意味でどよめいた。
二十数分前、第二タームが終わり、インターバルとしてベンチに帰ってきた彼らからは、妙な緊張感が漂っていた。普段から緊張感を持って試合に臨むのはいいことなので、特に気にもせずスポーツドリンクをそれぞれに手渡していた。その時、気づいてしまった。
魔王様が臨界点突破なさっている。怒りの矛先を誰に向けることもできずに、無言でドリンクを口に流し込んでいる魔王は、差し詰め死人の血を吸い尽くす吸血鬼のように見えた。と思っていたら口から出ていた。
「殺すよ?」
「…ごめんなさい」
魔王のストレートな殺意に背筋が凍った。
その後の彼らの試合は圧巻だった。怒涛、という言葉はこのためにつくられたのかと思うような猛攻、一瞬の気の緩みも許されない緊張。そして私の指示に耳すら貸さなくなった彼らは、驚くべきチームワークを見せて相手チームに圧勝した。
「これ、私いなくてもよかったんじゃない?」
「何言ってんすか!清少っちがいたからこそっすよ」
「お前のおかげだ」
「そうなのだよ」
「清少ちんがいたから〜」
「僕らは共通の敵を見つけて団結することが出来ました」
「え、なにこれ遠まわしに敵認定されてる?」
「直接言ってるつもりなんですけど」
黒子くんの言葉にまさかと思って周囲を見まわした。巨人たちは当然だとでも言いたげに首を縦に振っていた。衝撃的で心外な言葉が心臓に突き刺さったような衝動で、足元がふらついて身体が揺らいだ。
「おっと、」
「、赤司クン…」
「納言、君はよくやったよ」
「赤司クン…!」
赤い人に抱きとめられて、その腕の中で励まされる。少し泣きそうなこの心境と、あんな仕打ちをしたにも関わらず優しく慰めの言葉をかけてくれる魔王の懐の深さに涙腺が緩んだ。ごめんなさい、ありがとうと心の内を素直に示してから、涙のたまった目で少し上にある魔王の顔を覗き込むと、その穏やかな瞳の少年は柔らかく笑って頷いた。
「謝って済むと思うなよ」
否、その笑顔は悪魔の微笑そのものだった。
「さあ、学校に帰って、試合の反省点を話し合おう。納言は土に還ってあの世で反省するといい。そのまま輪廻転生して地獄で自分の犯した罪を贖ってくればいい」
「赤司クンって意外と根に持つんだね」
「そうだね。俺は些細なことを根に持つ小さな人間だ」
「そんな謙遜するなんて赤司クンらしくないよ」
「心が狭い俺は君に何か大変なことをしでかしてしまうかもしれないけど、心の広い君は許してくれるんだろうね。ああ、よかった、俺は良い友達を持った」
「……」
「夜道では背後に気をつけな」
心の広さでカバーできる問題ではなさそうだ。魔王の獲物を捕らえるような鋭い目つきに怯えながらそう思った。
心外な彼女18
20140121
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