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17
魔王は言った。全ての指揮を任せると。
こんなバスケ初心者、ましてやルールもロクに知らない小娘にそんなことを言ってしまうのだから、魔王の脳内は悪魔菌に侵されてしまっているに違いない。バスケしてる場合じゃない。エクソシストを呼べ。
とはいえ魔王の従順な僕である私にとっては願ったり叶ったり、こんなラッキーなことなどない。
全ての指揮を任せる。それすなわち解放という名の自由を手にしたも同然である。腹から吸った息を吐き出す勢いと共に全力で指示をした。
「今だ、エターナルアイズブルードラゴン!」
「ブルー…ぶふぉ」
「何笑ってんだよ黄瀬コノヤロー」
「明らかにバカにした笑いだったよねー」
「青峰、お前のコートネームはザリガニではなかったか?」
「ミドちんよくそんなこと覚えてたね〜。でも清少ちんがザリガニは赤だってことに今更気づいたんだってー」
「それで変更すか」
「2分間の貴重なインターバルめいいっぱい使ってすることじゃねェよな。しかも呼ばれると死にたくなるんだけど」
「青峰のメンタルを削るとは…」
「清少ちんって実は敵なんじゃね?」
何を言っているかまでは聞き取れないが、4人が和やかに歓談してることだけは伝わった。まずは第一関門の緊張ほぐしはうまく作用したと考えていいだろう。
残りの1名は緊張しすぎて歓談すらできない状態なのだろうか。仕方ない、と溜め息を1つ吐いてから声を張った。
「ちょっとザリガニ!ちゃんとやりなさいよ!」
ポカン、とした一瞬の間がコート上を包んだ。え、あいつ自分でつけたコートネーム間違っちゃってね?バカなんじゃね?という空気がヒシヒシと伝わってくる。
「呼んでますよ、青峰っち」
「いや、俺はブルードラゴンだし」
「お前意外にザリガニが当てはまる奴なんていないのだよ」
「いや、待てよ」
「え、まさかっしょ」
「いやいやいやいや」
「…ま、まさか」
「俺がザリガニでは何か不服かな?」
「「「「いいえ」」」」
今度は引き締まった緊張が走る。やはりコートネームを付けたのは正解だったとにんまりすると、赤司クンもにっこりしながらこちらを見た。どうやらコートネームがお気に召したらしい。
「いけ、ザリガニ!」
「……」
「俺こんなに笑顔が引きつってる赤司っち初めて見るっす」
「あれは無言の怒りなのだよ」
「赤ちんの汚点だねー」
「汚点ってか黒歴史だな。これ公式戦だぞ」
第一関門は突破できたようなので、次は何をしようかとにんまりしていると、影と存在感がゼロに等しい彼が隣から睨んできた。何故か威圧感と存在感が半端ない。
「…赤司君、怒ってますね」
「え?笑ってんじゃん」
「君は本音と建前という言葉をご存知ですか」
「本当の気持ちと世間の体裁を考慮した考えってことだよね、知ってるよ!」
「そこまで知っていて何故…」
黒子くんが頭を押さえながら首を振った。まるで私が救いようのないアホとでも言いたげな反応だ。頗る心外である。
「ほら、あの帝光の赤髪の人、ザリガニって呼ばれてる〜」
「超ウケるんですけど〜」
真後ろの観覧席にいるギャルの声が心臓を揺さぶるほど響いた。
「……」
「……」
「まさか赤司クンがギャルに指差されて笑われる日が来るなんてね…」
「君のせいですけどね」
「次のインターバルが怖いなぁ」
「君のせいですからね」
心外な彼女17
20130904
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