「ふふ、うふふ」
きめぇ。正直にそう思った。春の陽気にやられたのだろう同僚を可哀想だと思いながら見ていると、女も俺が見ていることに気が付いたのかこちらを振り向きブイサインを形作った。どうした。
「告白されちゃいました」
「あ?」
「好きなんです、だって」
「…空耳なんじゃねぇの」
「ところがどっこい本当なんです」
浮かれすぎだと馬鹿にして言えば、だって初めてなんですもんとはにかまれた。今夜は赤飯だと鼻歌まで歌う始末。
「初めて、なの?」
「はい、初めてです。こんなむさ苦しい連中と毎日刀振り回してて告白されるわけないじゃないですか」
「誰だ」
「何がですか」
「相手」
「ああ、よく行くタバコ屋の店員さんです」
「お前タバコ吸わねぇじゃん」
「吸わない私に買いに行かせる誰かさんがいるおかげですっかり常連客です」
俺か。
思わず手で顔を覆った。
「結婚を前提にとまで言われちゃいました」
「ああ、そう」
「どう思います、副長」
「…いいんじゃないの」
俺に聞く必要ねぇだろ。
ここで即座に気持ちを吐露できるほど簡単な関係だったらこんな面相くさいことになっていない。難しいのだ、いつだって。自分の気持ちと真正面から向き合うのは。
「そうですか、勿体ないことしたかな」
「は?」
「実は断っちゃったんですよ」
「なんで」
「だって今は江戸を守ることで精一杯ですし、結婚とかまだ考えられないですし」
「あ、そう」
「それにタバコを買いに行かせる建前がなきゃ女を部屋に呼び込めない誰かさんもいるし」
俺か。
思わず手で顔を覆った。
大当たり
(なんでバレてんだよ)
(なんでバレてないと思ってんだろ)
20120407(なんでバレてんだよ)
(なんでバレてないと思ってんだろ)