「熱心でござるな」
声をかけると女はゆっくりと顔を上げた。逆光で拙者の顔が見えなかったのか、少しだけ目を細めると、ああ、とでも言うように笑みを見せた。相変わらず医者らしからぬ女子である。
「本の虫とはこのことだな」
「そりゃあ力も入りますよ」
私の肩には鬼兵隊の命が乗っかってるんですからね。
さして気していないように言う言葉の重みを、拙者もこの女子も嫌というほど分かっている。いや、救い上げては落ちていく命を見ているこやつの方がよほど…
「なんの書物でござるか、これは。あまり見慣れない文字が並んでいるようだが」
「晋助様の発作に関する書物ですよ」
「……あまり良くはないのだろうか」
「……」
医者は何も言わずに書物に目を落とした。聞くべきではなかった。しかし聞かなければ始まらなかった。
地球滞在中に出会ったこの女医はその地域では名の知れた名医で、その手にかかれば不治の病も直すことができると半ば神のように奉られていた。それに目を付けたのが晋助だった。半ば強制的に船に乗せたことから、図らずも彼女はこの船の船医となってしまったが、その不幸な境遇から一時はちゃんとした処方を受けられるのかという疑心もあった。しかし彼女が船に乗ってからというもの隊員の目は輝きだした。その豊富すぎる知識から、不摂生の改善、不眠症の治療、隊員の精神ケアまでこなしてしまう彼女に陶酔しないものはいなかった。
そしてある日彼女は言ったのだ。
「晋助様は重大な病魔に侵されています」
その言葉に誰もが驚き慌てふためいた。当の本人はそれを否定したが、その否定もむなしく翌日から彼女のもと治療することが決まった。
そして今に至る。
「治るだろうか」
「治して見せます、……と言いたいところですが正直今は発作を起こさないことで精一杯です」
「そうでござるか」
「情けないですね、医者は病を治すためにいるというのに」
「小町殿はよくやっておられる」
「お心遣い感謝します」
「皆小町殿には感謝しているのだ」
「感謝なんて…私は医者としての職務を全うしているだけですもの。晋助様の病も地球に行けばいくつかサンプルを取れるのですが…」
「なんと、地球発祥の病でござったか」
「ええ、思春期から大人まで幅広く発病する恐ろしい病魔です」
「流行病でござるか?」
「昔からある病気ですが病名を付けられたのは近年です。病状としては破壊願望、自己中心的思考、現実世界からの逃避が挙げられるとか」
「すべて晋助に当てはまるではないか!」
「ええ、残念なことに」
「恐ろしい病でござる」
「ええ、本当に」
「厨二病という病は」
ささやかな復讐
(晋助様、厨二病によく聞く薬を作りました)
("黒歴史の公開"という処方なんですがね)
(もうお前船降りていいからどっか行け)
201200512(晋助様、厨二病によく聞く薬を作りました)
("黒歴史の公開"という処方なんですがね)
(もうお前船降りていいからどっか行け)